「やはり男の子!少し見ない間に大きくなりますな。随分と男らしくなってきた」


何が楽しいのか、嬉しそうに笑うそいつに俺は笑顔の仮面を被る。
そうすれば満足そうに頷き奴らは踵を返しまたどこかへその笑顔を振り撒きに行くのだ。
今日はクリスマス。俺にとっては全く楽しく無いその一日。
だが、ブラック家である以上は欠席は出来なかった。
どこそこで飛び交う名前は、魔法界では名の通ったものばかりだった。


「面倒臭ぇ・・・」


吐き捨てた言葉は誰のかの耳に届くことも無く、騒音に掻き消される。
だからこそ音にしたのだが、あまりに沢山の食器のぶつかり合う音、足音、演奏、そして誰彼の話し声全てに苛立った。
下心丸見えの大人達の会話から逃げるように、俺は人気の無さそうなテラスへ向かう。
室内とは別世界のように冷えた空気が俺の火照った体を心地よく冷ましていき、俺は静かに深呼吸した。


「ふぅ・・・」


己の出した音では無いそれに、俺は機敏に反応した。
そこに居たのは、俺と同じ年だったと記憶している一人の女だった。


「こんばんわ。シリウス・ブラックさん」
「・・・こんばんわ。さん。今日も変わらずお綺麗ですね」
「そんな聞き飽きたお世辞は要りませんよ。少し、お話しませんか?」
「・・・喜んで」


家。魔法界でも知らぬ者は居ないと言われる名家。
だからこそ、俺はその家のクリスマスパーティーへ行きたくも無いのにやってきたのだ。


「日本はどうです?と、言っても我が家は純和風でも無いから何とも言い辛いでしょうか?」
「ああ、まぁ・・・多少の違いは感じますが、そこまで大きな違いは分かりませんね」
「それは良かった。日本の文化は其方とはまた違いますから、ご不便があってはと思っていたんです」
「なぁ・・・」
「はい?」



はっきり言って、パーフェクトなヤツ。
見た目は勿論、性格も、家柄も、そして、頭の方もバッチリだと聞いている。
そんなヤツ、俺からすれば“面白くない奴”に過ぎない。


「その敬語?畏まった喋り方やめねぇ?そんな言葉は大人相手だけで十分だ」
「・・・仰ることはもっともですね。わかりました」


スッと差し出された手に俺は視線を向ける。
「改めて宜しく、シリウス」そう言って、そいつは俺の手を強制的に掴みブンブンと振った。


「あ、あぁ・・・」
「シリウスは、ホグワーツに入学するんだよね?」
「そうだけど」
「私も、ホグワーツに入学するつもりなんだ」
「え?なんで、わざわざホグワーツに」
「世界を見たいから。なんて・・・まぁ、色々なことを知りたいんだ。家の者であるなら、それに恥じないためにも」
「へぇ・・・」


家のため。俺の大嫌いな言葉だ。
何が家のためだ。己の意思はどうなる。なんで、家なんて言う鎖に縛られなきゃいけねぇんだ。


「ブラック家もある意味有名な血筋を守る家だったよね」
「興味ねぇ」
「そうなんだ?」
「俺は、ブラック家に生まれたくなんか無かった。何がブラック家だ。何が純血だ!潰れちまえば良いんだ、こんな家!」
「シリウスは家が嫌いなんだ?」
「大っ嫌いだ!お前も大変だよな。家ってだけで自由も効かねぇ。好きなことも出来ねぇ。名家らしく。家の者らしく・・・そんな毎日だろ?」
「そんなことは」
「何が名家だ。馬鹿みてぇ。下らねぇ」


俺は、胸元のブラック家のエンブレムそして、見上げたそこにあった家のエンブレムを見て笑った。
「本当、下らねぇ」そう言って。
そして、静かに呼ばれた俺の名前。いや、俺の家の名前。


「ブラック」
「なんだよ、シリウスって呼べよ・・・」
「どうやら、私とブラックとでは意見が合わない。私は、家のことを誇りに思っている」
「は?」
「私は私の意思で家の者として恥ずかしく無い生き方をしたいと思っている。ブラックが、己の家を好こうが」
「好きじゃねぇ!」
「・・・嫌おうが、それは勝手だけど、少なくとも私は何も知らないブラックに我が家のことを馬鹿にされる筋合いは無い」
「そんなつもりは」
「そんなつもりでしょ?嫌々参加して、嫌々笑って」
「・・・っ」
「さようなら、ブラック。また会う時は、・・・お互いに少しでも大人になって居たいものだね」


俺の引き止める為の言葉を全て無視して、あいつは騒音の世界へと姿を消した。
伸ばした手は空を掴み、そのまま俺はギリッと力を込めた。


「何が大人に、だ・・・」








「シリウス!」
「シリウス!」
「バカウス!!!」
「・・・っんだと!」
「起きた!」
「ったく、朝食要らないのかい?寝坊だよ、ね・ぼ・う!」


枕元にある時計を見れば、いつもより30分も遅い起床時間だった。最悪だ。


「畜生・・・嫌な夢見たぜ」
「え?何だって?」


そして、低い唸り声と共に呟いた一言のせいで、一日中問い詰められることになったのもまた最悪だ。














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3年ぶりの更新とか凄い・・・。
2006年っていつですか?って感じですね。
月日の早さを物凄く実感。
このネタを思い描いて3年以上。どんだけ温めてるんだ・・・;

2010/01/28      ←拍手を送る?




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