ホグワーツ城のありとあらゆる場所が装飾され、誰も彼もが浮き足だっていた。
季節は冬、一週間後はクリスマスだ。そして、クリスマスパーティーが控えていた。
日に日に装飾が増え、忘れたいと思ったとしても忘れることが出来ない、それくらいホグワーツ城はクリスマスを強調していた。
ここ一カ月、生徒の話題のほんどがクリスマスパーティーだった。
特にその中のメインイベントとも言えるダンスパーティー、そのパートナー選びが大半を占めていた。


「彼ってば全然理解してくれないの!」
「わかる!なんで男ってあんなに鈍感なの!」
「そうそう、聞いた?レイブンクローのレイチェのパートナーがグランに決まったらしいわよ!」
「ええー!グランってジェシーと付き合ってたんじゃないの?!」
「何でもレイチェの猛烈なアタックが効いたらしいけど・・・」
「そう言えばこの前レイチェとブラッドが一緒に歩いてるの見たわ!」


こんな会話がそこらじゅうで飛び交い、一部の男子生徒に関しては絶えることの無い女子生徒の熱気にうんざりしていた。
そんな男子生徒の代表とも言えるのが、近づく奴は全員噛み殺すと言わんばかりに苛々を募らせたシリウス・ブラックだった。


「全く!さっさとパートナーを決めれば良いだろう!君なら選り取り見取り、そんな苛々も解消されるだろうよ」
「うっせぇな・・・決まってりゃとっくに決めてんだよ」
「シリウスって本当に見た目に似合わず、そう言うとこは紳士的って言うかギャップだよね」
「う、うん・・・」


本日に何度目になるかも分からない舌打ちをしたのはシリウスだ。
彼等の話から分かる様にシリウスにはパートナーが居なかった。否、正しくは居ないのでは決めかねていた。
ジェームズの言うように、パートナーにと誘ってくる女子生徒は引っ切り無しに現れた。
しかしシリウスはそれをことごとく断り、それで女子生徒が諦めるかと思いきや私にもチャンスがあるのではと、逆に女子生徒の心に火をつける結果になっている。
ここでパートナーを決めてしまえば事態は収まるにも関わらず、それをしないのはシリウスが見た目に反して誠実であり、誰でも良いと言う軽い考えを持っていなかったからである。
それは、言ってしまえば選ばれたパートナーはシリウスに少なからず好意を持ってもらえたと言うことになる訳で、卒業を控えた学校一番とも言われるイケメンに勇気を振り絞る者も少なくは無い。
そんなこんなで、色々な要因が重なった結果であり、誰が悪いとも言えないが少なくともシリウスには全く喜ばしく無い事態だった。


「それじゃあ、僕はリリーとの約束があるから!」
「あ、僕もハンナと会う約束してるから」
「ぼ、僕も・・・」
「あー、あー!好きにしろよ!」


幾らシリウスの機嫌が底無しに悪かったとしても、七年もの付き合いになればそんな姿すら見慣れている彼等はそれぞれの用事の為にほとんど躊躇うこと無く離れた。
シリウスだって態々それを引き止める程野暮では無かったし、一人になりたい思いもあり半ば追い出すように友人を送り出した。





無意識に人通りの少ない廊下を選んで歩いていたことに気付いたのはピタリ足を止め周りを見渡した時だった。
ホグワーツ城のありとあらゆる通路を知りつくしている自分にとって、人通りの少ない場所を見定めるのは簡単なことで、今回に限っては完全に無意識で行っていた。
居心地は悪く無いと、シリウスはそのまま歩き出そうとしたが微かに聞こえる物音にピクリと反応し息を殺し耳をそばだてた。


「いえ、予想はついていましたから・・・」


その声をシリウスは知っていた。
幼い頃は常に共に過ごしていたはずなのに、気付けばそこには埋めることの出来ない大きな溝が出来ており今では互いに出来る限り関わることを避けている。
だが、周りは彼等をセットとして見ることが多かった。それは容姿が似ていたからなのか、兄弟だからなのか、はたまたブラック家だからなのか。
お兄さんは、弟君は、そう言って様子を伺って来る者は少なくは無かった。
レギュラス・ブラック――その声の主は、間違いなくその人物だった。ならば相手は誰だ、そう思ったシリウスだったが、知ったところで関係が無いことだと首を振った。


「――寂しくなるよ」


シリウスはハッとした。この声も知っていた。
思い浮かぶ人物は一人だけだ。悪い噂一つ耳にせず、完璧だと言われ続け今やホグワーツの鏡とまで言われる生徒。


「ソウ先輩もお気をつけて」
「ありがとう」

間違い無かった。
レギュラス・ブラックそしてもう一人の人物はガンジュ・ソウ、シリウスの苦手とする人物だった。
舌打ちしたい気持ちを必死に抑え、シリウスは静かにその場を離れた―――かったが、後ろからやってくる人物に気付き今度こそ盛大に舌打ちした。
シリウスの見間違いで無い限り、やってくる団体の一人は先日からしつこく自分をパートナーにと誘ってくるヴィクトリアだ。
今相手にしたくない人物ベスト5に入るような人物だったため、シリウスは一瞬迷った末に本来向かっていた方向へと早足で歩き出した。
どうやらとレギュラスの話は終わったようで、そこにいるのは一人だった。
恐らくだがレギュラスの向かった方向に予想はつく。シリウスは、それ以外のルートを簡単に導き出す。


「・・・こんにちは、ブラック」
「来いっ」
「えっ」


が挨拶するのとシリウスがその腕を引っ張るのとはほぼ同時だった。
不意打ちだったは、慌てて引かれた方へと重心を移動したがそこでグッと力を入れ踏み止まった。
流石のシリウスもその抵抗に思わず力負けしたが、直ぐに気付きを睨みつけた。


「急に何なんだ」
「シリウスー!」
「良いから来い!」


燕寿の問いかけに被さるように響いた声に、シリウスは更に力を込め燕寿に有無を言わさず走り出した。





ものの数分だったが、シリウスがの手を放した時、二人の肩は大きく揺れていた。

「一体っ・・・何なんだ」
「・・・」
「事情を説明して頂きたいんだけど」
「巻き込んで悪かったよ」


シリウスはそう言って、渋々と事情を話し始めた。
あの時自分の名前を読んだのはヴィクトリアで、最近付き纏われ、あの時は相手をしてやれる余裕が無かった。
だから、巻き込んでしまう形になったがあの場から何が何でも離れたかったのだ、と。


「それで?」
「・・・それだけだ」
「・・・」
「何だよ」


燕寿の視線にシリウスは顏を顰めた。
事情は説明したし、巻き込んだのは悪かったと思うが何故そんな顏をされなければいけないのか分からなかった。


「私を巻き込んだ理由は?」
「だから、そこに偶然居たからだろ」
「・・・ブラック一人で逃亡すれば良かったんじゃないか?」
「・・・え」


言われた言葉にシリウスは言葉を失う。
そして、その言葉を理解した瞬間シリウスはその場に頭を抱えて蹲った。
自分は何をやっていたのだ!言われる通りではないか!一人で逃げれば良かったのだ!
いつもなら、と擦れ違おうとシリウスは決して目を合せなかったし、言葉を交わすことだって無かった。
そうだ、いつも通りに無視を決め込み一人であの場を乗り切るだけで十分だったのだ。


「何やってんだ俺は・・・」


盛大な溜息を吐いたシリウスの姿に、はどうしたものかと首を傾げた。
どうやら自分はただ巻き込まれただけで、これ以上ここに居る必要も無いようだしとは帰るかと軽く息を吐いた。


「悪かった、完全に俺が勝手に巻き込んでた」
「いや、構わないよ。誰にでも間違いはある」


シリウスが自分の行動をどう捉えたのかは定かで無かったが、普段どんなに失礼な態度をとってくる相手でも今は謝罪の言葉を述べている。
ならば自分は、それにしっかりと応えるべきだろう。
本当に大して気にするようなことでは無いと思っていたので、はもう十分だろうと今度こそ立ち去ろうと決めた。


「・・・お前、ダンスのパートナーどうすんだよ」
「・・・どうして急に」
「いや、別に嫌なら話さなくて良いんだ」


は気付いた。
きっと彼は今必死にどうにかしてこの空気を崩壊させたいのだ。
自分の失態が途轍も無いショックだったようで、少しでも早くが他のことへ気が散る様にと普段は話しかけても来ないのにこうやって会話を求めている。
は気にしていないのにと心の中で苦笑した。だが、今ここで無碍にするのは可哀相な気がして口を開いた。


「まだ決まって無いよ」
「そうか・・・」
「・・・」
「・・・」


沈黙。
どうやらブラックと言う人間は会話の提供が苦手のようだとは心の中で呟く。
気にしていないから、そう言って去るべきだろうとは思った。


「誰にも誘われてねぇ・・・訳じゃ無いんだろ」
「そうだな、女の子からいっぱいお誘いは貰ってるかな」
「女って、お前も女じゃねーか」
「そんなんだけど」


それでも誘ってくる女の子が居るのは事実だったし、気持ちとしてた素直に嬉しかった為は笑うことしか出来なかった。


「男からだって誘われてんだろ」
「・・・そうなのかな」
「んだよ、その微妙な返事」
「Ms.ソウ!」
「・・・しっかり誘われてんじゃねーか」


呼ばれた声に振り返れば、何度か顔を合せたことがあるスラッグ家の長男シェーターの姿があった。
何の用なのか、そんなの聞くまでも無かった。この時期に態々呼び出される理由など決まりきっていた。
は一度シリウスに向き直った。


「私を誘ってくれる女の子は居る。―――そして、ソウ家のオプションとして私を誘ってくれる者は・・・少なくは無いよ」


それじゃあ、とはシリウスから離れ、シェーターとの距離を縮めると一言二言言葉を交わしシリウスの視界から消えた。





はシェーターと向き合っていた。
場所は人通りの少ない廊下で、それでもちらほらと人目はあった。
それでも構わず、シェーターは口を開いた。


「その、検討はついてると思うんだけどダンスパーティーのパートナーに、良かったら僕と・・・どうかな?」


は返答に詰まった。
彼のことは好きでも嫌いでも無かった。何度かどこぞの名家のパーティーで顏を合わせて会話もあった。
クリスマスパーティーもすぐそこまで迫っており、そろそろ決めるべき時期だと自覚していた。
自分が決めなければ、自分を誘ってくる者にまで被害が及ぶのも感じていた。


「そうだな・・・私も好い加減パートナーを決めなくちゃいけない・・・」
「それじゃあ!」
「私で良かったら、宜しくお願いしまっ」
「悪いけど、こいつは先約済みなんだわ、俺とな」
「えっ・・・」
「こいつは、ソウ家の人間としてでは無く一人の女として自分を見てくれる奴が良いんだとよ」
「・・・っ」


シリウスの言葉にシェーターは顔を歪めた。
に女性としての魅力が無い訳では無かった。しかし、確かにその時、誘った理由には壮家の者だからと言う事実があった。
シェーターは大きく息を吐くと「僕もパートナーを見つけるよ、引き止めて悪かったね」そう言って立ち去った。


「・・・んだよ、その目」
「いや、いつパートナーに誘われたのかと考えていただけだよ」
「俺もパートナーを探してたし、お前の家柄には興味ねぇ。だったら双方の意見の一致だろ」
「勝手過ぎる」
「・・・悪かったよ、嫌なら他当たるし、さっきの奴の誤解も解く」
「・・・そうだな」


の答えに何故自分は後を追ってしまったのかとシリウスは自分の行動を呪った。
これではまるで自分がに執着している様じゃないか!
今日の自分は全てが軽率過ぎるとシリウスは過去に戻れるものなら、朝一に自分に言ってやりたかった。
「今日は寮から出るな!大人しくしとけ!」と。


「悪かったな」
「・・・あやふやな状況は好きじゃない、正式に聞きたいんだけど」
「え」
「誘ってくれるんだろ?パートナーとして」
「・・・っ」
「意味を履き違えてる?」
「・・・あー・・・っと、その・・・―――俺と、いや、俺のパートナーになってほしい」
「有難く、そのお誘い受けさせて頂きます、――シリウス」


シリウスはハッと目を見開いた。
知っていたのかと、覚えていたのかと、自分がどれだけブラックと言う名を嫌い、その名前で呼ばれることを嫌っていたのかを。
シリウスは、壮家の燕寿では無く、一人の女性として燕寿を選んだ。
それに燕寿も応えたのだ、一人の男性としてシリウスを見ることで。


「恥かかすなよ、――ガンジュ」
「シリウスこそ、恥かかせないでくれよ」


二人の視線がかち合った。
そして、同時に二人は笑った。
余りものに福あり、シリウスは過去の自分を褒めてやった。
よく適当に選ばなかったな!偉いぞ、俺!













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長くなった!
なんでか知らないけど、いや無理矢理こんなに話を進めたからだけど長くなった!
シリウスとヒロインが再び打ち解けた瞬間でした。
シリウスに言わせたかった台詞!言わせることが出来て満足です。

2012/10/9



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