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玄関を開ければ、そこは見覚えがあるような無いような空間が広がっていた。
辺りをグルリと見渡し、ハッと気付いた。
「そっくりなんだ・・・」
そう、部屋の広さこそ絶対的に広くなっているが、物の配置から置いていた雑貨まで全て同じ。
何て・・・親切なのでしょう・・・。
「ってことは!」
ブレザーを椅子に掛け、ブラウスのボタンを外しながら向かうはクローゼット。
勢い良く開けば、そこには予想通りの景色。
「見事に洋服まで・・・」
今まで持っていた洋服に加え、何の善意か知らないけれど、まだ値札も付いたままの洋服がハンガーに掛けられて数十着。
部屋着に着替えようとタンスに手を伸ばし、あれ?と考える。
「何かあったな・・・」
ブレザーを椅子に掛けた際に、テーブルの上に何かがあったのだ。
そうだ、それを見るべきでは無いだろうか。
「重要書類があったり、神様的なのからの手紙とかあるでしょ」
トリップの王道だもんね、とテーブルに向かい、堂々と存在を主張している封筒を手に取る。
こんなに主張してたのに見逃してたことを謝るよ。ごめんね、封筒。
「さて、何が出るかな」
封筒の中を覗き、数枚の書類と通帳、印鑑、そしてクレジットカードを取り出す。
出てきた書類は、私の住民票と地図そして新聞記事だった。
「成程ね、家族は居ませんってことか」
新聞記事には私の両親の名前、そして写真が載っており大きな見出しには「原因不明の火災、夫妻死亡」と分かり易く書かれており、つまり私には家族が居ないのだ。
確かに全く知らない人が家族でも、本当の両親そっくりの人でも違和感は拭えないだろうから一番良い解決法なのかもしれない。完全に本当の両親が同時にトリップは流石に問題があるだろうし・・・。
でも、そう考えると元の世界では私の存在はどうなってるんだろう。最初から無かった存在?それとも、・・・いや、まだ帰れないとは決まって無いんだ!
「あ、忘れるとこだった!」
仁王との約束があったのだ。
20分後に来るとか言ってたか・・・と時計を見て、やばい!と目を見開く。
「あっ・・・」
視界に捉えた通帳をおもむろに拾い、もしやと開いてみる。
「・・・決まりだな」
ありがたいほどゼロの並んだ残高に、現金にも口の端を上げてしまった。
だけど、これで仁王の約束は果たせる。
部屋着に着替えるのは中止して、再びクローゼットを開き目ぼしい物を選び、ささっと着替えてしまう。
「よしっ」
全身ミラーの前で、軽く髪を整えて満足気に頷いて、玄関へ向かい、これまた私の靴とプラスされた真新しい靴の中から無難な物を選び出し、部屋の電気をオフにして外に出た。
インターフォンを押して数十秒。ガチャリと開いた、そこには当たり前に、部屋の主が姿を見せる。
「なんじゃ、態々迎えに来たんか?」
「うん、そう」
「ほぉ、もう出来たとは、お前さんやるのぉ」
「いいや、今からだよ」
「・・・」
どう言うことだと怪しむ仁王に、私は財布をちらつかせる。
「食べに行こうよ、奢るから」
「・・・そりゃ、ルール違反ぜよ」
「そんなルール聞いて無いし、約束は夕飯を御馳走するなんだから何も破ってないでしょ」
「・・・はぁ・・・、お前さん―――待っときんしゃい」
何を待つのだろうと思いつつも、言われるが侭にそのまま閉まったドアを目の前に立ち尽くす。
携帯を弄るにも、まだ此方の世界のネット事情が分からず完全に手持ち沙汰だった。
「よし、行くぜよ」
「・・・着替えたんだ、態々」
「コンビニならええけど、食べに行くなら部屋着じゃまずいじゃろ」
「・・・そうでも・・・」
仁王なら部屋着すらも格好良く見えたから・・・なんて、口にはしないけれども、イケメンは何を着ても似合うもんだと感心する。
まぁ、そんなイケメンにも一日付き合えばそれとなく慣れて来たようで、私は結構平常心を保てるようになった。
エレベーターの狭い空間に二人っきりでも、平常心だ。余裕だった!
ピーク時を過ぎたレストランは静かなものだった。
数組の家族連れやカップル、グループは居るものの騒音に不愉快になるようなことはなかった。
「へぇ、じゃあ料理とかも作ってんの?」
「そりゃ、毎日買う訳にはいかんからな」
「・・・凄いね、中学生で男の子なのに」
「致し方無くの結果じゃ」
仁王はステーキセットのステーキを上手いこと切り分けて口に運ぶ。
私は、塩サバ定食だから骨を上手く取り除くことに、半分の集中力を使い残りの半分は仁王との会話に注ぐ。
「両親とか何も言わなかったの?」
「まぁ、最初こそええ顔はせんかったが、俺が折れる気が無いと分かったら薄情な程に無関心だったぜよ」
「へぇ、凄いねぇ。部屋とか全部自分で探したんでしょ?」
「多少は姉貴に手伝って貰ったりもしたが・・・」
「お姉さん居るんだ!」
「まぁ・・・居るっちゃ、居る」
「何、その微妙な答え」
お姉さんのことがあまり好きでは無いのか、仁王の表情に思わず笑えば仁王は益々顔を顰めた。
それから一口水を飲むと、「それより」と私に視線を向ける。
「お前さんは何でこんな中途半端な時期に転校してきたんじゃ?しかも、一人で」
「え・・・、―――そこはトップシークレットかな・・・」
何と答えるのが正解なのかも分からずそう言ってみたが、やはり納得出来るはずも無く仁王の表情が険しくなる。
しかし、私にはまだ状況が把握出来て居ないし、分かっていることなんて僅か過ぎるのだ。
「じゃあ、ちょっとだけ話すけど・・・家族は居ない。と言うか、他界したの。――ああ、別にそんな顔して欲しい訳じゃないから気にしなくて良いよ。だから、一人暮らししてると言うか、必然一人になった訳。転校については、やっぱり周りの目があんまり嬉しいものでは無かったからってところかな」
「悲劇の・・・みたいな感じか?」
「うん、まぁ・・・同情とかして欲しい訳じゃなかったし、今までの家では広すぎたのもあるかな」
無理矢理な部分もあるなと思いつつ、何とか納得してもらえそうな理由を思いつく限り並べてみれば仁王は納得したらしく、険しい表情は消え去った。
そして、予想外の一言を放つ。
「いつでも頼りんしゃい」
「―――え」
「一人で女なんじゃ、何かあった時に頼る相手も居らんじゃ話にならんぜよ」
確かにそうなのだけど、これでも元の世界で一人暮らしには慣れていたし、何より何故この仁王が私にそんな言葉を掛けてくるのだろう・・・。
そうか、これは・・・同情か。成程、確かに私の現状は同情されても可笑しく無いな。
「有難いけど、やっていく自信あるし、変に気を遣ってくれなくて良いからね?」
「・・・」
「気持ちが迷惑とかじゃなくて、ほら、お互いの生活あるし、まだ中学生じゃん!そんな私のことまで気に掛けてたら自由な時間無くなるって!」
そうでしょ?と笑ってみせる。
しかし、仁王はそうは思っていないのかうんともすんとも言わない。
「お前さん、金はどうしとるんじゃ?」
「え・・・、一応生命保険とか入ってから心配無いくらいにあるけど」
「そうか・・・」
「う、うん」
急に金の話を始めて一体なんなんだ!と突っ込みたい。突っ込めないけど、突っ込みたい!
そんな私の心情に気付いているのかいないのか、仁王は考え事でもしているのか視線はステーキに釘づけだった。はっきり言って、傍から見ればステーキどれだけ好きやねん!な怪しい男ですよ。
「そう言えば、今日の部活なんじゃけど赤也の奴がの」
「あ、そう言えば部活の時は結構普通だったね、あの子」
「そうなんか?」
「うん、敬語だった」
「そこか?」
「重要でしょ、そこ」
それから20分程話し込んで、約束通りに代金は私持ちで店を出た。
帰り道、コンビニの明かりが見えて、飲み物と明日の朝食を買おうと少しだけ寄り道して適当な商品を選び、書籍コーナーへ向かう。
「・・・あった」
手に取ったのは、仁王を始めとしたメンバーが載っている雑誌漫画。
中を捲って見るが、やはり私の知っているテニス漫画は無かった。しかし、それ以外の知っている漫画は当たり前に連載されており、それに加えて知らない漫画も幾つか見かけた。
「買っておくか」
一応、読んでおくべきかとそれも一緒にレジへ向かった。
「お待たせー」
「おー」
先に買い物を済ませたらしく小さなビニール袋を手に提げて、仁王はコンビニの入り口近くに立っていた。
本当に何もしてても様になるイケメンでむかついてくる位だ。
隣を並んで歩くのは、今は夜だから良いとしても真昼間とかだったら中々悲しいかもしれない・・・。
「じゃあ、おやすみー」
「おう、おやすみさん」
決まりきった挨拶をして、律儀に部屋の前まで送ってくれた仁王に手を振る。
僅か数メートルなのに、送るってどんだけ紳士なん・・・まさか、あれは柳生・・・無い、か。
「・・・面白い方ですね―――なーんてのぅ」

2011.06.07
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