|
やたらと目が合うのは何故だろうか…。
朝、少しだけ道に迷いつつも、途中からは同じ制服の生徒を見つけて半分ストーカーのように、学校に到着。
それから教室に入れば、明るいクラスメイト達に迎えられ、至って普通の日常がスタートしていた。
ホームルームが終わり、先生を捕まえ昨日の書類を渡せば、一言二言やはり心配するような言葉をかけられて苦笑する。
それからあっと言う間に一限目が始まった。
二限目・三限目と順調に過ごし、四限目。これが終われば長い昼休みが待っていた。
「資料、次のページ開けー」
そう言われ、社会の資料のページを捲る。
そして、黒板へと目を向ければ本日4回目だ。赤い髪の彼と目が合う。
「・・・?」
口だけを大きく動かし、彼は何かを伝えたいらしい。
だがしかし、私にはさっぱり分からない。うーん、と何度もその口の動きを観察する。
「・・・・・・・・」
に・く・しょ・く・きょ・う・りゅ・う・・・?
何故今それを言うのだろうか・・・いや、これは私の読唇術が間違っているのだろう。
でも、一度そう思ってしまうと何度見ても肉食恐竜にしか見えなくてもう訳が分からない。
急ぎで伝える用件なのかな?
そう考えている私の視界にスッと入り込んできたもの。
前の席で目立つその銀色を揺らす仁王、その人間の手だった。
正確には、その手と一緒に小さな紙切れ。そして、器用に私の机の上にそれを残して行った。
その紙には仁王の文字だろうそれで書かれた文字が並んでいた。
“みょうぎ てっちゅうあて”
「・・・ぇ」
もう一度丸井君を見れば、彼は前を向いていた。
私は暫し考えて、仁王の字の下に言葉を追加した。
"にくしょくきょうりゅう”
・・・うん、文字数はぴったりだ。
じゃあ、丸井君は只管私にこの妙技鉄柱当てを伝えたかったのか?
何の為に?
でも、考えても私に答えが分かるはずも無く、後で聞けば良いかと黒板へと目を向けた。
随分と文字が増えており、ノートに写すのが大変そうだ。あと少しで鐘が鳴るのに!
「さん!」
「あ、丸井君」
鐘が鳴り、私はどうにかギリギリで写し終えたノートを机に仕舞っていた。
すると、そこへ勢い良く丸井君が現れ、バンッと机の上に手を乗せた。
「さっきの伝わった?」
「あの口パクだよね?私は、肉食恐竜かと思ったんだけどさ」
「肉食恐竜?」
「うん、いや、思い込むとそれにしか見えなくて」
「プッ」
「そこ、勝手に笑わない」
「肉食恐竜ってどんな解析したんじゃ」
「うるさいなー、そう見えたんだって!―――で、えっと妙技鉄柱当てだっけ?それがどうかした?」
「え、何で知ってんの?俺の技」
「え、だってそう言ってたんでしょ?仁王が教えてくれたよ」
「はぁ?!ちげぇ!俺が言いたかったのは"一緒に飯食おう”だって!」
「・・・え、そうだったの?全然分かんなかった!」
「仁王、お前態とやったんだろ!」
「プリッ」
成る程、そう言いたかったのなら四限目のさっき一生懸命伝えたかったのが理解出来る。
しかし、仁王・・・態々嘘を教えてくるとは流石ペテン師。侮れん奴だ。
「あ、でさ、一緒に食える?」
「うん、まぁ別に約束とかはしてないけどさ・・・」
「マジ?んじゃ、昨日と一緒で学食だけど行こうぜ」
「・・・うん」
「ええんか、お前さん女友達欲しいんじゃろ・・・」
「あ、」
それを言えば丸井君が気にするだろうと敢えて言わなかったのに、言ってしまったよ、この人。
「あ、そうだったよな!悪ぃ!」
「いや、良いよ!態とじゃないって分かってるし!」
「昨日の今日で忘れとったブンちゃんが悪いんじゃ」
「言うなよな!傷付くだろぃ!」
「あ、でも本当にほら、もう皆ご飯食べ始めちゃったし、良いよ、行こう?」
寧ろ、今日までは一緒に食べて下さい。と心の中で付け加える。
今更一緒に良いかなと入っていく勇気は無いですよ。
「本当に悪いな!赤也にもよーく言っとくから!」
「え?なんで赤也?」
「・・・行けば分かるだろぃ!」
凄く気になるんですけど!と私の気持ちを無視して丸井君は早く行こうと私を急かす。
此処まで来たら行かない訳にも行かないけれど、何だか釈然としない。
「来た来た!遅いッスよ、先輩!」
「うるせぇ!こっちはお前と違って忙しいんだよ!」
「なんスか、俺が暇人みたいな言い方!それより、連れてきてくれたんスね!」
「おう、当たり前だろ!俺を誰だと思ってんだ」
「流石ッス!丸井先輩!」
食堂に着き、昨日とは違うB定食を選び、仁王、そして丸井君に続き昨日の面々の揃うテーブルへと向かえば、真っ先に気付いた赤也が声を響かせた。
何故だか分からないけど、彼が私を呼び寄せたらしい。
私は昨日は居なかった真田君と簡単な挨拶を済ませると、箸を伸ばした。
「先輩の家、仁王先輩の部屋のすぐ近くだったんスか?!」
「・・・そこまで知ってるんだ、切原君」
「確かに、隣の隣じゃったけどお前さんが気になるようなことはなんも無かったぜよ」
「ふーん、でも仁王先輩の家に行けば漏れなく先輩の家も見れるってことッスよね!」
「いや、何を言ってるのか分からないけど見えるのはうちのドア位だからね」
「何でッスか!入れてくれたって良いじゃないスか!」
「馬鹿言わないでよ、入れる訳無いでしょ!」
「切原君!女性の部屋にお邪魔するなど簡単に口にするようなことではありませんよ」
「・・・詰まんねぇ」
ぶうと口を尖らせる切原だけど、そんなの知ったこっちゃ無い。何考えてんの、このもじゃもじゃ。
「仁王と同じマンションってことは、・・・一人で住んでる訳じゃないよね?」
幸村君が不思議そうに訪ねてきたけれど、確かに中学生のしかも女一人が一人暮らしは普通には有り得ない話かな。
どうやら仁王も何も言っていないようだし、ここは問題無い程度には教えておいた方が良いのかも。
「ちょっと訳あって一人暮らしなんだよねー」
「訳ってなんっ」
「そこは仁王に聞いて。態々何度も説明する気は無いんだよ」
「先輩は知ってんスか?」
「ピヨッ」
「一人だと色々と不安な確率は高いと思うが?」
「えっと、まあ、慣れてはきたかな」
「何かお力になれることがあればおっしゃってくださいね」
「そうだぜ、男だし力仕事とかだったら協力するぜ」
「・・・ありがとう、柳生君に、ジャッカル君」
・・・何故こうも気を遣って貰えるのか不思議だ。たかが、仁王と丸井君のクラスメイトの一人に過ぎないのに。
これがトリップした特典とでも言うのだろうか?それとも、単なる偶然で、彼等の目に留まっただけ?
なんだか、あまりにも出来過ぎたこの状況が怖くなってしまう。
「今日は一人で帰るんスか?」
「そうだけど?―――あ、仁王さ、近くのスーパーの場所教えてよ」
「ああ、了解」
「近くの店も知らないのに、慣れてきたと言えるとは中々良い度胸だな」
「・・・そこ要らない突っ込みしないで」
「興味深かったものでな」
「ふふっ・・・」
柳君に興味を持たれたら己のプライバシーが荒らされてしまう。
これ以上興味を持たれないように注意が必要だな、うん。あと、幸村君笑うと怖いから止めて欲しいかな。
放課後、無事に仁王にスーパーまでの道のりを教えて貰い簡単な地図を片手に私は帰路に着いていた。
何度か地図を確認しつつも、大して難しい道では無かったので私がこの辺かと顏を上げれば、すぐ目の前に大きなスーパーが存在を主張していた。
買い物を済ませ、そこからは勘を頼りに近道を探したりしながら帰宅した。
「明日こそは女の子とお昼を食べよう」
そう決意して、一日を終える為に布団へと潜り込んだ。
まだ覚醒しきれない頭で登校して、自分の席へ向かうとそこには本来なら居るはずの無い仁王の姿があった。
朝練はサボりだろうかと眠っている仁王を無視して、そのまま着席する。
鞄の中から本日必要な物を机の中へと移し、朝のホームルームまでの僅かな時間を睡眠に使うことにした。
「・・・んっ」
「おい」
「何・・・?サボリの仁王君。私、眠いんだけど」
「顔貸しんしゃい」
「なんで」
「用がある」
折角眠ろうとしていたところを、前から軽く突かれそれでも無視すれば声がかかる。
貴方は今まで寝てたでしょうけど私は今、寝たばかりなんですけど!と言いたいところをグッと我慢して大人しく仁王に着いていく。
そして、非常階段へと連れ出され「天気良いね」なんて呟けば、仁王は振り向いてポケットからある物を取り出した。
「受け取って」
え、嘘でしょ。
「でも・・・」
「俺の気持ちじゃ」
仁王の手の中にはあるのはどう見ても手紙。白い封筒。
これって、ラブレターってやつ?
でも、仁王がラブレターって柄じゃ無いでしょ。
ってことは・・・
「誰から?もしくは、何の冗談?」
「俺から、本気」
その真剣な眼差しに勘違いしてしまいそうで嫌になる。
諦め半分で受け取った手紙を、ジッと観察する。まぁ、普通の白い封筒だ。
「開けて良いの?」
「ん、」
許可が出れば躊躇無く中身を取り出した。
そして、一言だけ。
「ごめん」
「やっぱりな」
私は、中身を折りたたむと再び封筒へと入れ仁王へ返す。
だけど、仁王は受け取ることはせず、「俺はやることはやったき」と私の横を通り抜けて行った。
「なーにが、俺の気持ちって?」
手紙をグシャと握り潰し、ポケットへ突っ込む。
波乱の幕開け。そんなものを感じた。

2012.09.02
|