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ぞろぞろと帰路に着く生徒を何度も見送りながら、私は一人の男を待つ。
ここに来て思ったことだけど、私結局のところ、最悪の場合、タクシーで帰れば良かったよね?
多少遠いとは言っても、きっと財布の中身で行けただろうし、律儀に仁王を待ってる理由なんて無かった・・・いや、あった。大事な書類は人質じゃないか・・・早く来いよ、仁王雅治。
「あれ、さん?」
「あ、どうも。お疲れ様です」
「うん、誰か待ってるの?」
「あー、まぁ半強制的に待ってる感じですかね」
やってきたのはしっかりと制服に着替え終えたテニス部部長の幸村君。部長が着替え終わったのにまだ来ないとは何事だ、仁王雅治。たるんどる!
「そっか。じゃあ、俺も待ってようかな」
「え?何をですか?」
「さんの待ち人?」
「待ち人ってそんな素敵なもんじゃ無いですよ。ただの、何ていうか、嬉しくもない縁で繋がれてしまっ」
「酷い言いようじゃのぅ」
「来た」
いつの間にかやって来ていた仁王は、態々私と幸村君の間に入り込む形で口を挟むと幾分悲しそうな顔で私を見た。演技でしょうけどね!100%!!
「遅い!」
「仕方ないじゃろ、着替えとったんじゃ」
「もう、さっさと帰りたいんだけど!」
「分かったから、そう怒鳴りなさんな」
怒鳴りたくもなるさ。私、長いこと待たされて空腹ですよ!凄い空腹。何度もお腹なりました!・・・って、あれ?ってことは・・・
「仁王も空腹でしょ」
「もってことはお前さん腹が減ってそんなにご立腹なんか」
面白そうに仁王は口の端を上げたが、私は素直に頷き、座り続けいたそこから漸く立ち上がると仁王の鞄を取り上げた。
「何するんじゃ」
「家まで送って貰うお礼に持つよ。そっちのでかいのは嫌。ってか無理だから、こっち」
「・・・」
そりゃ仁王の持ち物なら売れるかもだけど、そこまで悪徳じゃないってね。ただ送って貰うのも何だし、荷物いっぱいだろうからその一つ持って行きますよ。その代わり、さぁ帰ろう。すぐ帰ろう!
「へぇ、仁王、さんを送って行くんだ?」
「たまたま、偶然にも同じマンションだったのが発覚したんですよ」
「同じマンション?」
「部屋もすっごく近くて何の嫌がらせなんですかね。っと、もう本当に帰りたいんですけど、仁王」
「了解・・・。そう言うことじゃき、またの」
「・・・ああ、また明日」
何かぼーっとしてるっぽい幸村君だけど、今は帰宅が優先なんですよ。ごめんね!今度またゆっくり話せたら良いですね。その時はきっと、仁王に対する愚痴とかあるだろうし聞いて下さいね。アデュー!
「さん・・・」
「ん?」
「逆」
「え?!」
「お前さん道知らんのに何で先を歩くんじゃ」
「・・・あ、そうだった」
呆れ顔の仁王だけど、しょうがないでしょ。無意識なんだから!
まぁ、無意識ほど怖いものは無いよね。うん。今度はしっかりと仁王の後ろを歩いていると、仁王が右手を差し出してきた。え・・・これって・・・まさか・・・
「あの・・・」
「貸しんしゃい」
「え、でも・・・」
戸惑う私にいつも以上にきつい視線を送ってくる仁王。でも、だって、いくらなんでも展開が早すぎると思う。だって、だって、ただのクラスメイトでしょ?
「女に持たせる趣味は無か」
「は?」
「は?じゃ無か。俺の鞄」
クイクイと寄越せと手招きする仁王雅治・・・・・・・・ややこしいんじゃー!!!!と、ちゃぶ台があったら引っ繰り返してやりたくなる心の叫びを必死に抑え、無言で鞄を渡す。
「手でも繋ぐと思ったんか・・・」
「呆れてるとこ申し訳無いですけど、普通はそう思う。仁王の言葉が足りないんだよ」
「そうか?」
「そう」
一瞬きょとんとしたかと思えば仁王は何故かご機嫌で、鼻歌を歌い出したかと思えば私を見てニヤニヤ笑い、そしてまた歩き出す。はっきり言えば変人だ。私は一定の距離を保ちながらも、そんな変人の後を追う。嫌だけど!
「そう言えば・・・」
「・・・」
「何か反応くらい返しんしゃい」
「顔向けてんじゃん」
「つれん奴じゃ」
「どーも」
私につれない奴と言うのか!私に、お前が、言うか!
これが丸井君とか、幸村君とかならもうちょっとまともな反応を返せるだろうけど、相手が仁王だからってところに気付いて欲しいよね。変人め!
「で、何?」
「何で俺だけ呼び捨てなんじゃ」
「え?」
「呼び捨ての理由」
「・・・そうだっけ?」
「無意識なんか・・・変な奴」
・・・呼び捨て・・・呼び捨て・・・確かに・・・呼び捨てしてました。何でだろう。あれ?あれ?
私最初から呼び捨てだったっけ?そんなに失礼な態度だったっけ?あれ?
「ねぇ、私最初から呼び捨てだった?」
「・・・途中から」
「あ、良かった」
「良かったんか」
「まぁ、最初からならどれだけ失礼な奴って思われそうだからさ」
「ほとんど最初と変わらんぜよ」
「・・・え、じゃあ私のこと失礼な奴って思ってる?」
やばい・・・と、ぎこちない笑顔で尋ねる。すると仁王は立ち止まり眉根を寄せた。それは、不機嫌な顔だと思う。
「あの・・・ごめん」
「・・・」
「はいっ」
ピンッと背筋を伸ばし仁王の目を見る。あれ・・・笑って・・・る?
「俺も呼び捨てにする。それでお相子じゃ」
「え、でも私は、」
「なんじゃ、お前さん俺と仲悪くしたいんか、そないに言うなら俺は」
「違う違う!仲良くしたい!ありがとう!」
「・・・どーいたしまして」
ニッと口の端を上げて笑った仁王に不覚にもときめいた。だって、何だかんだ言ってもあの仁王だもん。あの、中学生でそのオーラは無いでしょって言う、何て言うかフェロモン有り余ってますの仁王の笑顔ですよ。
いや、違う・・・この場合は、無邪気な笑顔なんだ。だから、私・・・ダメなんだ・・・。
「顔赤いぜよ」
「分かって言ってるでしょ。やってるんでしょ」
「ん?」
「仁王はずるいな・・・私は、ギャップに弱いんだよ。あんたみたいに大人びた感じの人の無邪気な笑顔とか反則だー」
「・・・」
「あー!もう、帰ろう!今のは私の負け!不覚にもときめいたのは認めます!でも、今だけだからね!」
「・・・」
「ほら、行こう!」
私は仁王の手首を掴むと、力いっぱい引っ張った。それを弾みに、仁王は一歩足を出し、ゆっくりと歩き出した。
家に帰るだけなのにどんだけ時間を食ってるんだ私は!夕飯だってこれから作らなきゃいけないのに!
「あれ・・・」
「どうした」
「いや、」
私の家って食材あるんだよね?無かったらそっから買い物ですか?え、マジで?せめてカップ麺とか無いかな。今日一日が凌げれば明日は買い物行って帰れば良い訳だし・・・でも無かったらまずいよね。近くにスーパーとかあるのかな・・・。
「家の近くにさスーパーとかある?」
「・・・コンビニじゃったらあるが、スーパーは少し遠いぜよ」
「そっか・・・」
コンビニがあれば良いか。カップ麺でもおにぎりでも、今はコンビニも色々あるしね!良かった、良かった!
「寄って行くか?」
「いや、大丈夫」
「・・・」
「家にどれだけ食材あったかなーって思ってね。万が一足りない時は買いに行こうと思って」
「、」
「ん?」
「お前さん、家まで送って貰うのにお礼せんのは忍びない言うとったな」
「え、そこまでは言ってな」
「俺はええことを思いついた。俺にもお前さんにも良いこと」
「・・・聞かなきゃだめ?」
「俺は部活で疲れとるのに、道が分からん女を家まで丁寧に送り届けて、余計に疲れて、それでも鞭打って送り届けとるんに、話も聞い」
「分かった!聞きます!聞きますよ!」
今度は意地の悪い笑みで笑った仁王を私は見逃さなかった。畜生・・・こうなったら付き合ってやろうじゃないの!
さぁ、言ってみなさいよ。私も仁王にも良いことって言う、その内容!
「・・・え、いや・・・それは・・・」
「ほう、聞けんと」
「いや、なんて言うか一応年頃じゃん?私達」
「失礼な奴じゃ。お前さんも食べる物が無いかもしれん。俺も腹が減っちょる。お互い何も意義は無いじゃろ」
「いやいや、ありますって」
「・・・お礼って何じゃろなー」
「・・・卑怯だね、仁王」
「プリッ」
こんなの拒否権なんてあって無いようなものじゃないか!
仁王はしっかりと私を部屋の前まで送り届けると、部屋に入る私を見て(鍵はポケットに入ってましたよ!)手を振り「待っとるぜよ」と言うと背を向けた。

2011.03.09
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