さん!」
「え?・・・っと」
「俺、丸井ブン太シクヨロ!」
「あ、はい」
「ブンちゃんは、俺そしてさっきの赤也と同じテニス部じゃ」
「はぁ」
「俺、同じクラスな。クラスメイトだから!」

切原赤也が怒り露わに教室から出て行ったのと入れ替わりで現れたのは、何となく存在には気付いていたけどもやはり間違ってはいなかったようで、丸井ブン太、その人でした。
彼は今この時でさえもガムを噛んでいるようで、口をもごもごと動かしていた。
でもさ、此処って中学校だよね?え、それってOKなの?許されるの?

「あのさ、ガムとか食べてて良いの?」
「は?」
「いや、だって此処って中学でしょ?私の前の学校は間食とか許されなかったんだけど」
「あー…、だってよ仁王」
「俺に振りなさんな」
「校則緩いし怒られたことねぇから良いんじゃね?」
「そうなんだ」

校則が緩いとか怒られないとかそう言う問題なのか?って思いつつ、これ以上は考えても無駄だろうと納得しておいた。
どうせ、もう三年だしさ。今更過ぎるでしょ。三年間の習慣を私に止めれるかって言われたら答えはNOでしょ。

さんって」
「ん?」
「真面目なのな。風紀委員とかやってた?」
「やってない」
「んじゃ、何やってたの?」
「・・・・えっと、」

中学の頃の委員会?何やってたっけ・・・。
中学中学中学・・・えっと、えっと・・・高校は図書でしょ。中学・・・中学って委員会あったかな?

「あ、いや言いたくねぇなら良いから!」
「え?」
「そんなに答えにくい質問のつもり無かったんだけど触れられたくねぇんだろ?」
「いや、そんなこと無いよ」
「マジで?」
「うん、なんで委員会隠す必要があるのさ」

意味分かんないと笑って見せれば、それもそうだと丸井君は笑う。
笑い合う私達の間に突如、「ストーップ」とまるで見えない糸でも切るかのように仁王の手が割り込む。

「ブンちゃんは席に戻りんしゃい」
「なんでだよ」
「前」
「・・・げ」

示されるがままに前を向いた丸井君は、そこに仁王立ちする教師に頬を引き攣らせ乾いた笑いを響かせながら自分の席へと戻って行った。

「チャイムなった?」
「しっかりとな」
「気付かなかった・・・」
「夢中になりすぎじゃ」
「気をつけます」
「プリッ」
「何って?」
「何でも無か」

二時限目は社会。とっても淡々とした授業で、クラスの半数以上の頭が机と仲良くして居たのを私は知っている。
私は寝ることは無かったものの、この世界へやってきたことを考えてみた。
これが本当にトリップだとすれば、私の家族はどうなったのだろうか。私と同じように若返り、私だけがトリップしたことに驚く。そんなベタな展開なんだろうか。それとも一人暮らしかな?でも、家はどこ?私、神奈川になんて行ったことも無いんだけど・・・え、待って、やばくない?
いや、大丈夫。どうにかなるよね?うん、そうだよ。ホームレスなんて、そんな展開は無いよね。

「・・・さん、さん!
「はいっ!」
「大丈夫か?気分悪ぃの?」
「・・・あ、丸井君。あれ、授業は?」
「終わった。お前さん起立の号令にも無反応じゃった」
「嘘ー最悪じゃん」
「大丈夫、気付かれて無かったって!」
「・・・うん」

とは言われても、一日目から起立もしないで座ってる生徒とか最悪だよね。目付けられちゃうよね。
何やってるんだ私。思わず大きな溜息を吐いてしまう。

「いつまで落ち込んどるんじゃ。次、移動」
「え?そうなの?」
「一緒に行こうぜぃ」
「え?」
「お前さんに拒否権無し。もう皆移動しちょる」
「・・・なん、で」

可笑しく無い?普通、ここはクラスの女子との移動でしょ?
なんで、この二人と?先生だけならまだしもファンのお嬢さんからも目付けられますよ。嫌だー。
ってか、誰か誘ってよ。何故、私を仁王に預けるの?変だよー。

「仁王と丸井君に質問」
「ん?」
「二人はもてるでしょ。ファンクラブとか無いの?」
「は?ファンクラブ?」
「そう、別に隠さなくて良いんで」
さん、俺達一般人だぜ?ファンクラブとか有り得ねぇだろぃ」
「丸井が正論じゃ」
「・・・本当に?」
「おう」
「・・・よしっ、じゃあ良いや。行こう、次の授業は何?」
「音楽」
「オッケー」

なーんだ。ファンクラブとか無いんだー。そうだよね。中学生だもん!
あって堪るかって話だよね。良かったー。まぁ、二人がもてるのは確実だけど、私はただの友達ですってアピールすれば良いよね。うん、大丈夫だ。私、平和に過ごせそう!

さん、すっげーウケる!」
「は?何が?」
「いや、何つーか、全然読めねぇの。行動が!」
「そりゃ他人ですもん」
「そうなんだけど、そうじゃねぇって言うか」

そう言うと同時に丸井君は蹲り、ヒーヒー言いながら体を震わせている。
何なんだと仁王を見れば、「良かったな」と意味不明な言葉を返された。何が良いんだ。

「丸井君、音楽遅れるから行こうよ」
「あー、ツボったー」
「丸井君ってば!」
「放っときんしゃい。行くぜよ」
「薄情者だね、仁王」
「プリッ」
「また言った!」

教室から少し歩いたところで、「ふざけんな、お前ら!」と叫びながら追いついた丸井君を完全無視して私達は音楽室へと向かった。

無視とか止めろよな!おい!聞けって!

そんな丸井君の声は音楽室に着くまで止まることは無かった。






  


2010.08.02