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「じゃあ、自己紹介な」
「・・・」
「おい、?自己紹介しろって。どうした?」
「・・っあ!はい!えっと・・・です。不束者ですが宜しくお願いします!」
「・・・なんだその挨拶・・・まぁ、良いか。んじゃ、席はあそこの・・仁王、手挙げろー」
「プリッ・・・」
は?え?・・・ここって・・・あれは、仁王雅治?
一瞬途切れた意識が戻ったと思えば、目の前には中学生らしい男の子と女の子の顔が並んでいた。
それに気を取られて隣で話す先生の声なんて右から左へ流れて行って、再び声を掛けられて、訳も分からず思い付いた挨拶を告げる。
先生が若干呆れたようにも感じたんだけど、何でなのか分からない。
私はパニックなのだから。なんで、仁王雅治が居るの?
「あいつの後ろな」
私は、頷きを返して「よろしくー」「仲良くしようね」と言う声の中を進んだ。
仁王雅治と目が合った瞬間、気持ち程度に頭を下げておいた。
「んじゃ。HRは終わり。今日も、俺を困らせるようなことをしないように!」
「そんなに我侭で良いんですかー?」
「要するに、良い子で居ろってことだから良いんだよ」
「嘘だー!」
「はいはい、それじゃあ、また終礼で会いましょう」
生徒達の言葉なんて何のその。悠々と教室を去ったその人は立川先生と言うらしい。
HRと授業開始までのほんの僅かの時間で、数人の女の子に声を掛けられよくある彼氏は居るのかとか、どこに住んでいるんだなんてありきたりな質問に、答えられる範囲は答えて、住んでいる場所については曖昧に笑っておいた。
「Hello Ladies and gentlemen. 」
「Hello Ms.Kawashima. 」
最初の授業は英語。正直苦手。中学生レベルでもついていけるかどうか・・・。
先生と生徒達の簡単な英会話が終わると、先生がプリントを配り始めた。
「それじゃあ、今日はプリントの質問そして答えをアレンジしてもらいます。前後でペアになって下さいね」
前後・・・私は、真っ先に後ろを見たのだけど、後ろは既にペアが出来ていた。
つまり、だ・・・
「俺とペアじゃ。残念」
「いや、別に残念だなんてそんな・・・」
「顔がそうは言っとらんのじゃけど?」
「生まれつきの顔なので」
「今だけの関係じゃ。我慢しんしゃい」
「はぁ・・・」
「自己紹介。俺は仁王雅治。テニス部でレギュラーやっちょるよ」
「。帰宅部です」
「よろしく」
「・・・よろしく」
なんとも微妙な挨拶を済ませ、私と仁王君は配られたプリントを見ながらぎこちない英語を話し出す。
しかし、ここで驚いたことに仁王君の発音は綺麗。そして、そこで思い出したのは柳生比呂士。アデューか。アデューをやるから上手いのか!
「仁王君って英語上手いんだね」
「普通じゃ」
はいはい、そーですか。と心の中で答え、私はプリントに視線を落とす。
「さんは大人っぽい?」
何を言っているんだと視線を上げると、バチリと視線が合う。逸らすに逸らせなくなってしまった視線。
「私は全然、大人っぽくないよ。仁王君は大人っぽいね」
「よく言われる。中学生なんじゃけどな」
「私も中学生なんですけど」
「・・・そうじゃった」
「仁王君の周りは皆大人っぽい?」
「なんじゃ、その質問」
「類は友を呼ぶって言うじゃん」
「・・・おっさんのような奴から、幼稚園生のような奴までピンキリじゃ」
「恵まれた環境だねぇ」
誰のことを言っているのか、大体想像が付くだけにさぞ賑やかなんだろうなと微笑ましく思えた。
「うるさくて適わんぜよ」と答えた仁王君に、思わず笑った。そう言うと思った。
「仁王先輩!仁王ーせんぱーい!にっおーせんぱっい!」
ダダダッと地響きが鳴りそうな勢いで、姿を見せたのはテニス部の彼だった。
説明なんて無くてもわかる。あの独特の髪。そして、無邪気な笑顔。
「赤也君、うるさいんじゃけど」
「コンパス。コンパスと三角定規貸して下さい!」
「ジャッカルに借りんしゃい」
「今日は数学ねぇって!」
仁王君の机に手をつけ、ガタガタと揺らしては催促する彼。
なんて、自己中心的な子なんでしょう。
「ん?アンタ、誰?初めて見るんだけど」
この失礼極まりない態度。私が真田だったら遠慮なく鉄拳ですね。
「私は初対面であなた程失礼な人初めて見た」
「はぁ?」
「赤也が悪いぜよ。ちゃんと、名乗りんしゃい」
「・・・っんだよ。切原赤也。仁王先輩とは同じ部活仲間。これで満足ッスか?」
「。仁王君のクラスメイトで、今日転入してきたの。満足?」
切原赤也は、私から視線を外すと「こいつ、むっかつくんスけど!」と仁王君へと叫んだ。
いや、目の前に本人居ますけど。
「お前さんの自己紹介から問題じゃ。文句言いなさんな」
「俺の何が悪いんスか?!」
「分かっとらん時点で問題じゃな」
「あー・・もう!なんで、説教されなきゃなんないんスか?!アンタのせいだ!」
「それ、八つ当たりにも程があるんだけど」
「うるせぇ!」
大変憤慨されたようで、切原赤也は、ドスドスと地を踏み鳴らし去っていった。
予想以上に、我侭な子でしたよ。
「お前さん・・」
「はい?」
「いや、ええ度胸しとる」
「は?」
「赤也が何か言うて来たら俺に言いんしゃい」
そう言われると同時に、私の頭の上には仁王の手が乗っていて、ファンの方々に目付けられんじゃね?と過ぎったのは言うまでも無い。

2009.10.02
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