|
「あ…、です。宜しくお願いします」
「いや、知っとるから。今、名前確認したやろ?」
思わず自己紹介した私に、一氏君は面白い奴だと笑みを見せる。
それと同時に立ち尽くす私に痺れを切らしたのか、新たな声がかかる。
「自分、座ったらどない?注目の的になりたいんやったら別やけど」
ハッとして、慌てて空いた椅子に座り「ありがとう」と口を開こうとした瞬間、私は固まる。
「何?私の顔に何かついとる?」
「・・・ハッ!わかったで!あかん!あかんで!」
「ユウジ、そりゃ勘違いばい」
「なんや、まだ何も言うてへんで?」
「どうせ、小春は俺のもんやからな!惚れたらあかん!とか言うつもりとだろ?」
「な、なんで、なんで分かったんや、千歳!」
「そら、毎回のよ」
「わかったで!お前、そら俺は魅力的やけど、あかん・・・すまんな」
「勘違いも行き過ぎっと迷惑ばい」
「あ、あの・・・」
「ユウ君そこまで。私が自己紹介出来ひんやろ?」
「す、すまん。小春!」
入る隙の無いスピードで話し続けた三人・・・いや、一氏君だけかもしれない。兎に角、彼が落ち着いたところで、漸く自己紹介をしてくれたのは、一氏君が愛して止まない金色小春、その人だった。
そして、ここで気付いたのだけど理科の授業は1テーブルに四人つまり、私以外はこの濃いメンバーなのだ。
本来なら嬉しくて堪らないところだけど、今の私にはただでさえ混乱しているのに、こんなに騒がしいメンバーと一緒に一時間を過ごさなくてはいけないのかと思うと溜息しか出てこない。
「あ、ちょっと先生、そこ違うんやない?確かに、本来Aの物体はアルカリ性やけど、Bと化学反応を起こす訳やから、そこにCを入れたとしても」
「小春の言う通りや!」
「ユウジ煩かよ・・・」
「ユウ君、まだ私、話しとるやろ?」
「・・・すまん」
小春ちゃんの凄さはやっぱり折り紙付きで流石、IQ200と言われるだけのことある。
ただ、小春ちゃんが喋れば必ず一氏君が反応して、それに千歳君が偶に呆れたように苦笑する。
「よし、今日はここまで。次は実験やるから、グループで代表一人は早めに来て準備しとくように。ちゃんと代表者決めとくんやで」
「「「はーい」」」
代表者・・・と、周りを見れば「私がやっとくわ」と小春ちゃんが笑顔で手を上げ、「俺も一緒や、小春」と一氏君もハイハイと手を上げた。
お言葉に甘えて、私は二人に任せたのだけど千歳君が「次に代表が必要な時は俺とさんでやるけんね」と言ったことで、自然と私達はクラスごとのチームに分かれたのである。
「千歳君、それでええけど、ちゃーんと出席してや?そうや無いと、さん可哀相やから」
「せやで、千歳」
「・・・気を付けるばい」
ああ、そうだった。彼はサボりの常習犯だったのだ。
私は、少なくとも初めての代表になる時だけは出席して下さいと切に願った。
「よし、なら帰るばい」
「あ、うん。じゃあ、またね一氏君に小春ちゃん」
「おう、またな」
「またね〜」
理科室を出て、教室へ向かっていると前方からぞろぞろと移動中なのか一クラス分の生徒達が歩いて来た。
私は壁際へとずれて、その隣を当たり前のように千歳君が歩く。気付けば、千歳君と教室へ戻っている訳だが、何故千歳君となのだろうと疑問に思う。いや、別に良いのだけど、普通ここは女の友達と帰ったりしませんかね?
「千歳ーっ!」
「・・・ん?」
唐突に聞こえた、叫び声に私は落としていた視線を上げる。
そこには、見覚えのある顔。つい一時間ほど前にお会いした、忍足謙也君が居た。
「めっちゃ、ええタイミングや!今、そっちの教室行こうと思っとったんや」
「ああ、辞書返しに来たったい」
「せや!おおきにな!って、自分、えらい仲良しになったんやな」
「ん?いや、偶々理科で同じグループになったけんね。一緒に戻りよるだけばい」
「一緒のグループって確か、あの二人が一緒やって言うてへんかったか?」
「ああ、そうそう。小春にユウジも一緒ばい」
「そらまた、濃いグループに入ってしもたんやな。ご愁傷様やな、君」
「お、白石も居ったたい」
本当に次から次へと、どうしてこうも出会うんでしょうか・・・。
そりゃ、千歳君はテニス部だからテニス部が集まるのはわかるんだけど、早いんだよね出会うタイミング。
私のそんな心情を知る訳も無い彼らは、楽しそうに話してるんですけどね。
「自己紹介な。俺は、白石蔵ノ介。千歳も謙也も所属しとるテニス部の部長やっとるんや。因みに、小春にユウジもテニス部やから、まぁ、皆まとめて宜しく頼むわ。濃い奴ばっかりやけど」
本当にですよ。アナタも含め、濃いも良いとこだよね。
なーんて、心で返しながらも私も本日何度も目になるか分からない自己紹介をする。
「白石君はテニス部の部長さんなんだ」
「せや。苦労の絶えん部長やっとるで」
「苦労の絶えないって・・・」
「まぁ、同級生だけや無くて後輩にも厄介なのが仰山居るからな」
誰のことなのかは容易に想像できたのだけど、知っているなんて言えるはずも無く曖昧に笑いを返すのが精一杯だった。
出来ることなら、彼らに出会うのはまだ先で良いですと願ってみる。
「あ、さん!」
「はい、なんでしょう忍足君」
「忍足君って・・・謙也でええわ。忍足って呼ばれ慣れん」
「じゃあ、謙也君」
「君・・・まぁ、ええわ。で、部活決まってへんやろ?マネージャーやらへん?」
「はい?」
「マネージャーや。俺ら、テニス部の!」
ナイスアイディアやろ!と言いた気に白石君と千歳君を見る謙也君。
二人は驚いたように私を見る。そりゃそうだろ、私今日転入してしてきたばっかりだぞ。
はい、どうぞって認められるかって話だよね。
「うん、いや・・・でも、ね」
「せやで。急にマネージャー言われても困るに決まっとるやろ。良かったら、放課後部活に顔出してくれへん?」
「え?」
「まぁ、どんなもんなのか見るだけでも。興味あるんやったらやけど。強制はせぇへんから」
「はぁ・・・」
「さん、自分で言うとも何ばってん、結構凄かもん見れるけん楽しかと思うばい」
こそっと私に耳打ちした千歳君の言葉に、ああ確かに楽しいものは見れそうだと頷いて、「時間があれば」と曖昧な形ではあるが返事をしておく。
「ほな、待っとるで」
ひらひらと、その姿すら様になる白石君と謙也君を見送って私達も教室へと歩き出した。

2010.06.08
|