「よし、ほな自己紹介しとき」
「・・・」
「おい、・・・どないしてん。自己紹介や。自己紹介!」
「・・っあ!えっと・・・です。関西自体にも慣れて無いんで、どうぞ宜しくお願いします」
「はいっ、ちゅー訳で、皆仲良ぉするんやで。ほな、席はあの寝とる奴の後や。おい、千歳!起きろや!お前、学校に何しにきとるん・・・」

何、これ・・・。・・・いきなり転校?なんで?パソコンしてたよね?頭がついて行けない・・・。
一瞬途切れた意識が戻ったと思えば、目の前には中学生らしい男の子と女の子の顔が並んでいた。
それに気を取られて隣で話す先生の声なんて右から左へ流れて行って、少し大きめに声を掛けられて、訳も分からず思い付く決まりきった台詞を吐く。
そして、先生の示した席は大きな体の持ち主の千歳千里の後ろ。彼の席は窓際なので、私も必然的に窓際だった。
先生に呼ばれて、千歳千里は頭を僅かに上げ、そしてボーッと黒目だけを動かし辺りを見遣る。そして、

「おい!寝るな!学校や!寝るんは家でや、家で!」

何事も無かったかの様に彼はまた沈んだ。夢の世界へと。
先生に施されて、私は席へと向かい、その途中で数名の生徒に軽い挨拶をされて曖昧な笑顔だけを返した。

「ほな、HRは終わりな。次は、三時間目にまた会おうなー」
「えー、会いたくないわー!」
「阿呆!そこは、嘘でも喜んどけや!内申良くしたいんやろ?」
「・・・先生、離れたく無いー。愛してるー!」
「やりすぎや!」
「どっちやねん!」

頭を振りながら「もうええわ」と、教室を去った先生の名前は柴崎と言うらしく、皆からは『しばやん』と呼ばれているらしい。
これは、先程得た情報。
HRと授業までのほんの僅かな時間で、集まってきた生徒達に教えて貰ったのだ。
授業が始まり、「おー、お前が転校生な。俺は、藤崎だ。しっかり、授業聞いとけよー」と数学の担当の先生に言われどう反応して良いのか分からず、無言で頷きだけを返した。
それから、授業は順調に始まり一度勉強したことがある上に、中三の範囲ともなればまだ記憶に新しいところだ。
そんな訳で、私の意識は黒板から薄れ、知らず知らずのうちに前で僅かに風に揺られるフワフワとした髪の毛に移っていた。
そんな髪の毛が大きく動いたかと思うと、目の前の男の子はゆっくりと振り向き、私を視界に入れると不思議そうに首を傾げた。
そして、口を開き、一瞬固まり、前を向くと、また、寝たのだ。どれだけ寝る気だ、千歳千里。
私が、千歳千里と言う男の観察を続けていると「よし、じゃあ今日はここまでな」と言う先生の声と、授業終了の合図を知らせるチャイムとが同時に鳴った。

さん、次理科で移動やねん。一緒に行こう?」
「あ、うん」

真新しい数学の教科書やノートを机の中へしまっていると、先程も声を掛けてくれた髪の長い、少し気の強そうな林さんが誘ってくれた。
校舎の造りを全く知らない私には有難いお誘いで、断る理由も無かったので、数学から理科へと必要な物を聞きながら持ち物を交換し始める。

「千歳ー!」

何の躊躇も無く、教室へと足を踏み入れて来たのは明らかにクラスの違う男の子。
まさかと思い、視線を上げると「また、自分なん。クラスちゃうんやから遠慮しぃよ!」と林さんに注意される一人の青年。

「ええやん!別に悪いことしてへんし!」
「そう言う問題ちゃうねん!図々しいねん、自分!」
「はぁ?!どこが図々しいんや!めっちゃ礼儀正しいやん!」
「どこがやねん。笑わせんといて!」
「礼儀正しいやん!なぁ!自分もそう思うやろ?」
「・・・え?」
「あれ、自分見たこと無い顔やんな」
「ちょっと、いきなり口説くのやめてや!」
「どこが口説いとんねん」
「・・・ん、謙也?」
「おう、千歳!」

関西ってこうなんだよね。林さんと、男の子−−忍足謙也だと千歳千里の発言で分かった−−二人の言い合いはまさに関西パワーだと思う。
周りは慣れてるからなんだろうけど、全く反応無しで私はただ見てることしか出来なくて唐突に忍足謙也に話を振られ、そして、ここにきてようやっと千歳千里は目覚め、面倒なことになりそうな予感だ。

「あー!私、次準備せなあかんのに!ごめん、さん!千歳君起きたし、ゆっくり理科室まで案内して貰ってや。ほんま、堪忍!」
「え・・・あっ・・・」

私も準備が終わっていたので、着いて行けたのに、何の気を回したのか林さんは教室からあっと言う間に姿を消した。
どうしたら良いのだ・・・何故、よりにもよってこの状況下に私を置いて行ったんだと、若干恨んでしまう。

「んー・・・置いてけぼりばくらったばいね」

そう口を開いた千歳千里は、少し笑っていた。

「仕方ない。・・・朝からずっと寝てたみたいだから、改めて自己紹介するわ。転校してきたです。宜しく、千歳君」
「自分、転校生なん!そら見たこと無いっちゅー話や!」
「謙也、俺に話し掛けよらすとばい?宜しくな、さん。俺は千歳千里。関西の人間じゃ無かけん、言葉が分からんかったら言ってくれて良かけんね」
「あ、うん。分かった」
「千歳は、熊本から来たんやで。俺は、忍足謙也。浪速のスピードスター言われとるわ」
「自称ばってんね」
「そこは言うたらあかん!」

二人の漫才のような掛け合いに思わず笑うと、忍足謙也が「自分、なかなか笑いのツボ捉えとるな!」とよく分からないことをおっしゃった。
そんな私には入り込めない勢いで話す忍足謙也は、どうやら千歳君から辞書を借りるのが目的だったようで奪うようにそれを受け取ると、言うだけのことはあるスピードで立ち去った。

「・・・あー・・・本当に、スピードスター・・・」
「実際のところ、謙也のスピードは半端じゃ無かけんね。っと、いかんばい。遅刻する」

ガタッと言う音と共に立ち上がった千歳君の視線はかなり上の方にあった。キリンを眺める子供か私は・・・。
と、どうでも良いことを考えていると静かにチャイムが鳴り始めた。

「えぇ!?」
「あいたー、間に合わんばいね。すまんね、さん。とりあえず、少しでも早く行った方が良かし、走るばい」

言うと同時に、私の手首をガッチリと掴んだ千歳君。
は?え?はぁ?!っとパニック状態の私なんて見えませんの勢いで教室を飛び出すと、一歩一歩がでかい。
私は、引き摺られるように必死で走るしか無かった。本気で私の必死さに気付いて欲しい。過呼吸になるだろ!





「すまんばい!遅れたったいね!」

それはもう扉が壊れるんじゃ無いですか?って位、勢いよく理科教室へ飛び込んだ千歳君。
勿論のこと、教室中の全ての視線が集まる。

「・・・めっ、珍しいやん。お前が急いでやってくるやなんて」

そう返した先生に、なんだその返しはと思ったのだけど、千歳君は「今日は特別ばい」と言うと、私の腕をグイッと引っ張った。

「転入生だけん、遅刻させる訳にはいかんばい?」
「成る程な。災難やったな、転入生・・ええっと、やったか?」
「は・・はいっ」
「息切れとるやん。千歳、お前ちゃんと転入生気遣ってやらなあかんで」
「・・・気付かんかったばい、すまん」
「いや、うん・・・全然、大丈、夫。オーケー」

どう見ても大丈夫では無かったけど、千歳君が態とじゃ無いのは分かってたし、こう言うしか無かった。
肩が上下して、若干前のめりになっている私の体勢だけど、気付かないことにしてて欲しい。

「とりあえず、
「はい?」
「お前、千歳と同じグループや。仲良くなったみたいやし」
「は?」
「こっちばい、さん」

待て待て待てーい!なんて言う暇も無く、私は再び引き摺られるように千歳君と共に後ろの方のテーブルへと移動した。

「まーた遅刻か、千歳」
「今日は優秀な方ばい?」
「そう言う問題ちゃうねん」

一息吐いて顔を上げた私は思わず二度見です。
だって、だって、だって!

「自分、さんやったか?俺は一氏ユウジや」

なんで居るんですか?







  


2009.10.02