「一体、どういう心境の変化だ?」
 
 
そう首を振って全く分からないと言いたげに呟いたのは、一人や二人では無かった。クリスマス休暇が終わり、ホグワーツ城は再び生徒達によって活気を取り戻していた。
授業が再開されて、一週間が経つ頃、ホグワーツ城では知らないものがいないのではと思われるほど一つの出来事が広まっていた。
 
 
沈黙の少女が笑っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
逸らされぬ瞳 その奥の笑顔
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なぁ、ジェームズ教えてくれよ!シリウスでも良いからよ!」
「悪いが、トークスこれだけは話すことが出来ないよ。との約束でもあるしね」
「それ、何度も聞いたっつーの!けどな、誰もが気になってるんだぜ?あの、『沈黙の少女』とまで呼ばれたがクリスマス休暇が終わって帰ってきてみれば笑顔を振り撒く少女になってやがる。こりゃ、一体なにがあったんだ?そう思うのは自然だろ?」
「ああ、自然だろうね」
「だったら、教えてくれよ!気になって夜も眠れねぇ!」
「その分、授業中に寝てるようだし心配ないよ」
 
 
ジェームズはにっこりと笑い、「だぁ〜!!」と叫ぶトークスに「諦めたまえ、君」と肩に手を乗せ満足そうにその場を立ち去った。その後を「悪ぃけど言えねーんだわ」とシリウスが追った。
 
 
「教えてくれたって良いじゃねーか!」
 
 
そんなトークスの叫びに多くのものは同意を示した。『沈黙の少女が笑うようになった』それは誰もが知っていた。しかし、笑うようになった理由それを知る者は居ないのだ。分かっていることを言えば、悪戯仕掛人そしてリリー・エバンズが関わっていることだけだった。多くの者が尋ねた。「どうして彼女は笑うようになった?」彼等は同じ答えを返す。「彼女と約束したから教えられない」と、彼女と秘密を共有できることをとても嬉しそうに。
 
 
 
 
 
最近よく耳にすることがある。羊皮紙を拾った際の落とし主の少女。その少女が笑うようになったのだと。
僕があいつと話したのは僅かな数。それでも印象に残っているのは、それ程までの独特の雰囲気を身に纏っていたからだろう。あいつは今にも消えてしまいそうに見えた。消えたいなら消えれば良いと思った。ただ、あまりにも周りを見ていなさすぎて、あまりにも馬鹿に見えて思わず口から出たのは・・・
 
 
「何を考えていんだ・・・」
 
 
今、己はクリスマス休暇明けだからと言って容赦することなく出されたばかりの課題に取り組んでいたはずだ。と、セブルスは積み重ねられた本から必要としている記述を探し出す。外もここも、相変わらず寒いことに変わりは無い。ただ、窓の外は暖かそうに見える。白い雪と太陽の組み合わせは嫌いでは無い。
 
 
「あっ・・・」
 
 
聞き覚えが無い訳ではない。寧ろ、今の今まで自分の思考を占領していたのだ。そんな少女の声に、セブルスはらしくもなく勢いよく顔を上げた。
思わず声が漏れてしまったのだろう。少女は、手元の本を力無く抱えどうしたものかと視線を彷徨わせている。
 
 
「何か用か?」
「あ・・いえ、何も」
「そうか。・・・場所が無いのなら此処が空いている」
 
 
視線だけで、目の前の席を示し口には出さず「座るなら座れ」と告げた。少女は、どうしたものかと数秒その場に固まり、小さく頷くとそっと示された席に腰を下ろした。
セブルスはチラリと時計に目を向け、時間を確認した。昼食まで、そう時間は無い。
 
 
「・・・・」
「・・・・何か言いたいことがあるなら言え」
「いっ、いえ何も!」
「・・・少しは心を開いたようだな」
「っ・・あ、有難う御座います」
「羊皮紙のことだったら気にする必要は無い」
「それもですけど・・・一番最初の切欠は貴方だったから」
 
 
持ってきた本を開くことも無く、はジッとセブルスを見る。見るなとも言えず、セブルスは仕方無しにその瞳を見つめ返す。
 
 
「笑うようになったと聞いた」
「ええ・・・海の底にね、沈んでたの。『笑う』が。それを引き上げてくれたの」
「そうか。変わったな。悪い方にでは無く」
「よく言われる。嬉しいかな?」
「聞かれても僕が知るはずが無いだろう」
「そうね、貴方は私じゃない」
 
 
真剣に見つめられる。彼女の視線はセブルスから外されることは無い。
 
 
「セブルス・スネイプだ」
「・・ありがとう。です」
 
 
彼女が笑った。笑えることが幸せなのだと。口にせずとも分かる。それくらい彼女は幸せそうに笑った。セブルスは、騒がれるのも仕方の無いことだと思った。あの沈黙の少女が此処まで幸せそうに笑うのだ。きっとホグワーツ城中を探してもこんなに幸せそうに笑う者はいない。
 
 
「笑えるのが幸せか?」
「とっても」
「・・・即答か」
「毎日、思うの。幸せだ。笑えることって、ってね」
「大方検討はつくが、お前の『笑い』を引き上げた人物は気に食わん」
「知ってる。犬猿の仲だって分かるもの」
「だが、一生に一度だけ誉めてやろう。お前の『笑い』を引き上げたことは大したものだ」
「・・・・・・・そ、れ・・本人達に言ってあげて?」
「断る」
「残念」
 
 
そんな答えが来ると分かっていたのだと、少女は大してガッカリした様子も見せない。それよりも、楽しそうに、幸せそうに笑う。
 
 
「私、貴方と」
「名前で呼べ」
「・・・私、スネイプとこうやって話せるようになれて本当に嬉しい。幸せ」
「そうか」
「スネイプは興味無いかもしれないけど、私が話したいから聞いて?聞きたくなければ、聞かなくても良いの。私が一方的に話すだけだから」
「好きにしろ」
「ありがとう」
 
 
彼女は嬉しそうに話し出した。誰も知ることが出来ない彼女が笑うようになった理由を。クリスマスにとっても素敵なプレゼントを貰った。今思い出しても笑ってしまう。彼等は可笑しくて、優しくて、とても素敵で・・・
 
 
「スネイプも同じね。優しくて、とっても素敵」
「・・・」
「まさか顔を顰められるとは思わなかった」
 
 
彼女は笑っていた。逸らすこと無い、その瞳の奥もとても幸せそうに笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 

笑えることの幸せさを知った       >>>

 

 
 07'04.17     パチパチ・・・