「おはよう、!」
「おはよう・・・・・グラファー、ミルドック、ドルダン、ベギー、テークス、ラッテス」
は首を傾げた。何故そんなに驚いた表情をしているのだろうと。
目の前の六人は各々に顔を見合わせ、何故だかお互いを指差しあっている。
「ぼ、僕らの・・・全員の名前・・・と、顔−−覚えてるの?」
不安げに口を開いたドルダンには不思議に思いつつも一つ頷きを返してみせた。
「ありがとう!」
何故だか分からなかったがは彼等にお礼を言われた。彼等は皆、笑顔でとても嬉しそうだ。
「まさか、覚えててくれたなんて」
「一度、声掛けてくれたでしょ?」
「・・・うん。でも・・・・一週間以上も前だし、まさか覚えてるなんて・・・僕ら六人、全員を」
テークスの言葉に残りの五人も勢いよく頭を上下に動かし同意を示した。
暫く沈黙しては「それくらい、当たり前、でしょ」そう返した。
にとっての“当たり前”がどれほど彼等に喜びを与えたのか本人が気付くことは無かった。
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初めてのあいつを見たとき?・・・・覚えてねぇ
次にあいつを見たとき?・・・・あれだ・・・ピーターが声掛けたんだよ。・・・んで、無視して、たんだっけ?
あいつのことで印象に残ってることなんて喋らねえ、笑わねえ、怒らねえ。だな。
つまりあいつは喜怒哀楽ってもんが無い。・・・いや、分かり難い。とてつもなく、だ。
「やあ、」
「・・・ポッター」
「おはよう、」
「お、おはよう!」
「ルーピン、ペティグリュー・・・おはよう」
っていう奴は兎に角口数が少ないんだ。これぞ正に“必要最低限”ってくらいに喋らねえ。
俺は正直、そういう奴は苦手だ。どう考えたって会話が続きそうにねえし、楽しくねえ。それなのに、だ・・・・こいつは何故だか異常なほどに声を掛けられる。それはジェームズ達も例外じゃなく、毎朝のようにを見つけると何かと話し掛けるわけだ。そして、
「・・・・ブラック、も」
「・・・ああ」
俺は話し掛けたことは無かった。自分からは。はあんなに周りに興味を持っていなかったはずなのに俺の名前をいつの間にか知っていて・・・・本当に数えるほどでしかなかったが、ふっと俺の存在に気付いた時に−−あくまで俺たちの中の誰かが話し掛けた場合に限りだが−−とても会話なんて言えるものでは無かったけど声を掛けてくるようになった。
「ってさ、一度話した相手の名前も顔も忘れないらしいよ」
「へえ、すごいね」
「う、羨ましいなぁ。だ、だから、あっ、あんなに成績もい、良いんだろう、ね・・・」
「う〜ん、その人の顔と名前を一度で覚えられることが勉強までそうとは言えないけど、その可能性は無きにしも非ずってところだろう」
朝食の席、ジェームズの一言にリーマスがいつも通り一言返す。そして、ピーターが喰い付く。ほぼ毎日のようにどこからかは知らないがジェームズは何かしらの情報を集めてくる。それを嬉しそうに楽しそうに俺たちに話して聞かせる。勿論、それにピーターは毎日喰い付き、リーマスも傍目には分からないがしっかり耳を傾けている。
今日ジェームズが持ってきた情報に俺は成る程と納得した。だから、俺の名前を知ったんだろう。こいつらの誰かが聞かせたのか、全く関係無い奴から聞いたのかは知らないが俺の名前があいつの耳に届く可能性は全く持って低くは無いわけ、だ。
「一度話し掛ければ名前も顔も覚えてくれるんじゃ、皆が皆話したがるだろうね」
「・・・はは、そういうことだな。見てご覧・・・引っ切り無しに挨拶されてる彼女を」
そう言って視線を向けたジェームズの先にはが一人で朝食を摂っている。彼女を一緒にと誘うものが居なかったわけでは無い。ただ彼女はやんわりと断るのだ。一人が好きなんです、と。
今、彼女は一人で朝食を摂っている。はずなのに、彼女は傍を通る者から必ずと言っていいほど声を掛けられる。それは挨拶程度の本当に短いものなのだが兎に角数が多いだけに彼女が一人で食事を摂っているようには見えないのだ。何も知らないものが見れば彼女はお喋りな人気者に見えるだろう。
「最初の授業は−−」
「魔法薬学、だ」
「ああ、そうだったね」
魔法薬学が嫌いなわけじゃねえ。ただ、そこで会いたくもねえ奴に会わなきゃならねえのが嫌なんだ。そう、あそこでべっとりした髪で不健康そうな顔色してサラダを食ってやがるセブルス・スネイプにだ。
魔法薬学の教室は暗い、寒い。まあ、夏には悪くは無い。だが、火を使えば話は別だ。そんな、場所で俺は目を見開いた。いや、俺だけじゃねえはずだ。この場に居合わせた者全てが何かしらの反応を示した。口をパクパクするもの、教科書をバサリと落とすもの、僅かな段差を踏み外す者。それほど、この出来事は衝撃的だった。
「・・・・・ありがとう」
お礼の言葉と共に彼女は微笑んだのだ。それが珍しいことも理由の一つだが、何よりもグリフィンドールの“沈黙の少女”が微笑んだ相手に誰もが驚いたと言えよう。参考書に視線を落としていた青年は顔をあげた。それはある意味悪戯仕掛人と並ぶほどに有名なスリザリンの誰よりも闇の魔術に詳しいと言われているセブルス・スネイプだった。
「なんのことだ」
セブルスの表情ははっきり言って微笑む相手に返すようなものでは無かった。それでもは気にする様子も無く、ただ小さく、言ったのだ。
「羊皮紙を拾ってくれて」 (声を掛けてくれて、教えてくれて、励ましてくれて)
たったそれだけの一言で彼に全てが伝わるなんて思ってはいなかったが、それでもはそれだけで十分だろうと思った。きっと彼に全ての言葉を言ってしまえば彼に迷惑がかかるだろう。そう、何故だか分かったのだ。
「ふんっ、気にするようなことでも無いだろ」
羊皮紙に視線を落としてしまった青年をはじっと見た。ほんの少しだけ・・・彼が微笑んでいる。僅かに耳が赤い。それは全て、気のせいなのだろうか?