随分長い話を終えたリリーはとてもご満悦だった。
 
 
「だかきっとこれからは彼女に話し掛ければ気付いてくれるはずよ!」
「・・・うん、まあ、そういうことなのかな」
「絶対そうよ!だって無視じゃなくて気付いてなかっただけなんですもの!私、早速夕食の時にでも話し掛けてみるわ!」
 
 
ジェームズの曖昧な返事にリリーはしっかりと答えて見せた。絶対に友達になるわ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僅かな隙間 届く声 雲は涙を流さない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ところでその相手の子は誰なんだい?よく僕らでさえ分からなかったことを分かったもんだね」
「いっ、いいのよ!そこは!重要じゃないんだからっ」
「っんだよ、別に隠さなくたって良いじゃねーか」
「べ、別に隠してなんか・・・プ、プライバシーよ!」
 
 
珍しいこともあるもんだ。あのリリーが焦っている。そう冷静に彼等のやり取りを眺めながらリーマスは思った。・・・ああ、ピーターそれはきっと
 
 
「・・ッ!辛っ!!」
 
 
唐辛子味だ。・・・遅かったね、ごめん。
 
 
 
 
リリー・エバンズはホグワーツで一・二を争う美女だった、そして頭も良かった。彼女の欠点といえば少し真面目すぎること。そしてやや強引なところだろう。
しかし、そんな真面目で強引な彼女に惚れたもの、助けられた者は決して少なくは無かった。
そんなリリーは黙々と食事を摂る一人のグリフィンドール生−−彼女に付けられた異名は“沈黙の少女”だ−−の目の前の席へ腰掛けた。彼女の周りはいつも自然と空席だ。
 
 
「こんばんは、
 
 
“女神の微笑み”その言葉が大げさすぎないほどリリーの笑顔は美しい。
そんな彼女に「ああ、またか。無駄なのに」と注目していた多くの生徒は首を振った。“沈黙の少女”に興味を持ったのは何もグリフィンドール生だけに限らない。寮の枠を超え、女性だけで無く男性もまた何度もの名を呼んだ。だからこそ皆知っていた。『沈黙の少女は話さない』と。それどころか顔も上げないと。それは、ホグワーツでの常識になりつつあった。
しかし、だ。この時ばかりはその常識が常識で無くなった。
 
 
「・・・こんばんは」
 
 
“沈黙の少女”が話したのだ。顔を上げたのだ。教師では無いリリー・エバンズの声に反応して。驚いたのは二人の様子を眺めていた全ての生徒。そして、予想していたにも関わらずリリー本人。さらに、もだった。要するに、この時広間に居合わせたほとんど生徒が驚いていたのだ。
 
 
「な、なに・・か?」
 
 
数時間前の青年の言葉を思いだし−−
何度もお前の名を呼ぶ物好きが居るのを−−一瞬でその言葉を頭の隅に追いやった。消すことは、出来なかった。
そんな状態のはどれほどの人間が自分に注目しているか、自分に気付いているのか知りもしなかった。
 
 
「初めまして、私リリー・エバンズよ」
「・・・・・はあ」
「ふふ、話しをするのは初めてね」
 
 
嬉しそうな彼女とは正反対には首を傾げる。何の用だろう・・・
 
 
「私、これから毎日あなたに話し掛けるわ。決めたの!」
「・・・・え?」
「あなたのこと少しだけ知ったの。だからこれからもっともっと知っていくわ!」
 
 
喜びに興奮まで加わったリリーにはどう返して良いのか分からず−−夕食食べなくて良いのかな?−−そんな見当違いなことを思った。
困惑しているに−−表情は変わらないのだけど−−気付いていながらもリリーはしっかりと質問を繰り返した。それは傍から見ればリリーの一方的な会話にしか見えなかったがその意図を知る数名の者は小さく微笑んだ。
 
 
雲も小さく微笑んだ
 
 
 
 
 
 
 
 

分厚い壁に小さなヒビ       >>>

 

 
 06'07.31    パチパチ・・・