ひらり と落ちたその紙は 落ちることが決められていたのかもしれない。
そう 彼女に渡った その瞬間から
が図書室を出たのは五分程前のこと。蝋燭に照らされた廊下を両腕に積まれた幾つもの教科書を必死に抱えて歩いていた。今日の宿題の量は半端じゃなかった。そう呟いたのは誰だっただろう。
彼女の腕の中から一人の青年の前にひらりと落ちたその羊皮紙は強く己を主張した。
私を拾って 彼女に届けて
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態とでは無いかと疑いたくなるほど、目の前の少女から離れ床に落ちた羊皮紙を青年は睨みつけた。何故落ちる。よりにもよって僕の目の前に・・・
溜息を零し、主張する羊皮紙を拾い上げた。
「おい」
「・・・・・・おい」
青年は思った。こいつ耳が無いのか?
滅多なことでも無い限り声を張り上げない彼も、無視を続ける彼女にその滅多に無いことをせざるを得なかった。
「おい!そこの女!」
ビクリと肩を揺らしたのは羊皮紙の持ち主である少女。そして、偶然にもその場に居合わせた−−気付いているのは本人だけだったが−−リリー・エバンズだった。
「・・・・・・・」
振り返った少女はあくまで無言であった。青年は益々機嫌を損ね、その感情をそのまま表情に出した。最高に目付きが悪い。
「何か言え」
不機嫌だと言わずとも分かるその声色に少女、はその理由が分からず不思議に思った。何を怒っているのだろう?
「・・え・・っと、私・・・ですか?」
セブルスは怒りよりも呆れてしまった。
リリーはこの時が初めてでは無いかと思った。教師以外に言葉を発する彼女は。
「お前以外に誰がいると言うのだ」
「・・・さ・・さあ・・・」
予想以上に長いこと持っている羽目になった羊皮紙をやっと持ち主に返すときがきた。セブルスは腕を突き出すように前に出した。
「お前のだろう」
「・・・あ・・・ありがとう、ございま・・す」(いつぶりだろう人の顔を見たのは)
教師に質問されても正しく答えれば例え教師の顔を見ていなかろうと咎められることは無かった。だからこそ、は人の顔をしっかりと見るのはいつ以来なのか思い出せないくらいに久しぶりだった。
受け取った羊皮紙に視線を落とし、相手が立ち去るのを待った。
「・・・あ・・の?」
いつまでも立ち去らない相手に、とうとうは声を絞り出した。何故行かないんだろう?
「お前は・・・・お前が死のうが生きようが勝手だ。だが、今はお前は生きている。辛うじてだがな。それでも存在している。確かに、ここに存在しているんだ。そのことを忘れるな」
淡々と話してセブルスは最後にふんっと鼻で笑ってみせた。
の表情は変わらず無表情であったが、セブルスには困惑していることが何故だか分かった。
「・・・・存在・・・し・・・・てる?」
「そうだ」
「わ、私の居場所は・・・無い、わ」
「そう誰かが言ったか?」
「・・・・・・・・・い、いえ」
セブルスはもう一度笑ってみせた。勿論、たっぷりと厭味を含んで。
「ふんっ。お前は気付いていないのだろうな。何度もお前の名を呼ぶ物好きが居るのを」
「・・・・まさ、か・・・」
「やはりな。大方、お前の耳には届いていない−−いや、お前の心が聞こうとしなかったのでは無いか?問題児と言われていないところを見るとその心とやらは器用に教師の声だけは聞くのだろう。大したものだ」
まさか、まさか、嘘だ。この人は私を騙す気なんだ。そうだ、そんなの嘘に決まってる。そう、嘘・・・・でしょ?
「嘘だと思うか?答えは簡単だ。前を見ろ。周りを見ろ、声を聞け。心を少しだけ開け。未だ諦めず話し掛ける可笑しな奴も居たはずだ。・・・・・もう行く」
自分にしては随分と話したものだと思いながらセブルスはの横を通り過ぎた。外を見た。雨は・・・降っていないな。
「あ、あの・・・・・っ!」
初めて聞いた彼女のはっきりとした張りのある声。リリーは驚き、思わず頬が緩んだ。
振り返ったセブルスは一瞬驚き、そして、息を吐いた。
「お前は大丈夫だ」
「・・・っ、ありが・・・とうっ」
彼女には雨が降ったらしい。頬に一滴の雫が流れていたから。
微笑んだのは 誰だった?