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握り締めていた携帯が震えは直ぐに視線を其処へ向けた。
予想通りの着信相手に迷うことなく通話ボタンを押す。
「快斗君っ!」
「ショーの始まりですよ」
「えっ」
は叫ぶように快斗の名を呼んだが、返ってきたのはキッドとしての彼の声だった。
その言葉に困惑しただったが、快斗からそれ以上の言葉が紡がれることは無かった。
は諦めて、イヤホンを耳に押さえつけよく音が聞こえるように意識を集中した。
聞きなれない音に続いて、ガコンと何かを外したような音がしては何が起こっているのかと想像してみたが、現在快斗が何処に居るのかも、何をしようとしているのかも聞かされていない状態でそれを導き出すことは不可能だった。
「――来ると思っていたよ、怪盗キッド」
「っ!」
イヤホン越しに聞こえてきた声は快斗とは異なる男性のものだった。
はてっきり快斗の声が聞こえてくるものだとばかり思っており、その初めて聞いた誰かの声にビクリと肩を跳ねさせた。
「昼間の内に天井に仕掛けをして、やっと其処に入れた様だな。君には宝石は取らせんよ」
その言葉でキッドが何処かへ侵入し、そして見つかってしまったのだと察した。
逃げて!とは心の中で叫んだが次に聞こえたのは余裕綽々のキッドの声だった。
「フッ・・・私は予告状無しに宝石は取りませんよ」
「何?」
「今夜は貴方にお別れを言いに来たんです。もう命を狙われたくはありませんから」
「ぁっ・・・、流石怪盗キッド見抜いていたか」
(どういうこと?命を狙われてたって何?快斗君?!)
が不安に思おうが関係無しにキッドと男の会話続く。
「ええ、薄々は・・・しかし分からなかった。盗んだダイヤは貴方に送り返したはずなのに、しつこく命を狙ってくる理由が。それが今日やっと分かりました。――貴方がとても後輩思いだと言うことがね」
「可愛い後輩達のゲームを目撃してしまった君がいけないんだよ」
「ふんっ、ガードマン一人殺しておいてゲームとは」
「ゲームにアクシデントは付き物だ。君に見られたのもな」
目の前を元気いっぱいに駆け抜ける子供を瞳に映しつつ、イヤホンから聞こえてくる会話は全て嘘であって欲しいと切に願った。
命を狙うとか、ゲームとか、ガードマン一人殺すとか・・・は其れはドラマとかの話しでしょ、そうでしょうと自問する。
「可愛い後輩に相談されれば何とかしなければならないだろ」
「フッ・・・、ん?」
「・・・快斗、君?」
鼻で笑うよな音が聞こえ、その後に続いたのはおや?と言いた気な声。
余裕のある声だが、には関係無かった。キッドの予想外の展開=ピンチなのではと気が気では無い。
先程とは違う男の笑い声が聞こえは更にイヤホンを耳に押し付けた。もし勘違いで無ければ男は一人では無く仲間が居り、そしてキッドはピンチに陥ってしまったのだ。不安に汗で手が湿る。
「な、何のおまじないだね・・・」
「私が何の準備もせずにノコノコやって来たと、本当に思いますか?」
「っ!や、やれっ!キッドを打ち殺せ!」
パチンッ
パリンッ パリンッ パリンッ
「・・・っ!!」
ガラスの割れるような音が幾つも聞こえ、は堪らず目を瞑った。
それから、シューッと何かが噴き出す様な音が聞こえ次にキッドの声が聞こえてくることを願いに願った。
「な、何だこれはっ・・・」
「ご安心を、ただの催眠ガスですよ」
「快斗君・・・」
変わらず余裕たっぷりのキッドの声には安堵の息を漏らした。
イヤホンからはキッドが丁寧に男に状況を説明する声が聞こえる。
それによれば、全ては、今日の夜にキッドが侵入することを態と男に分からせ、男とその仲間の殺し屋を集め警察に引き渡す為のシナリオだったそうだ。
「ま、其処の二人が色々と喋ってくれるでしょう。――この盗品だらけの美術館のこともね」
「っぁ・・・!!」
ガガガガガガガガガッ
バリンッバリンッバリンッバリンッ
「っ?!」
突如イヤホンから騒音が響き渡りは堪らずイヤホンを耳から遠ざけた。
状況は完全にキッドが有利であった為、警察を呼んでいると言っていたキッドの言葉から、その場に警察を集めるために騒ぎを起こしているのだろうと推測は出来たが、必ずそうとも言い切れずは快斗の無事を祈る。
暫くすると、イヤホンから音が聞こえなくなりは恐る恐る其れを再び耳に近付けた。
「貴方のゲームもこれでゴールだ。それも最悪の、オウンゴールかな」
(・・・かっこいい)
状況も忘れて思わずそうは心の中で呟いた。
バサリと布を広げる音の後に、風を切る様な音が続きキッドの仕事が終わり何処かへ移動しているのだとは気付いた。
快斗が話しかけてくるまでは飛ぶ方に集中してもらう為にも無言で居ようとは気持ちを落ち着ける為に大きく息を吐いた。
快斗の言う「良いもの」は確かにキッドの声をリアルタイムで聞くことが出来た訳で嬉しい事だったが、こうもハラハラさせられる内容ならば少しでも状況を説明しておいてくれ!と快斗なりの気遣いに喜びと同時に不満も募らせていた。
「・・・もしもし、さん?」
「・・・」
「・・・さん?」
「・・・」
「あれ・・・さんっ?!」
「・・・はい」
「っんだよ、聞こえてるのか。吃驚したぜ」
「吃驚したのは此方の方で、其方の何百倍も心臓が縮み上がり寿命も縮まりましたが」
「・・・あれ、怒ってる?」
「そうですね」
「・・・まじ?――許して頂けませんか、さん」
「・・・そう言う卑怯な手は嫌いよ」
「・・・ごめんなさい」
快斗の恍けた様な声色から一変してキッドのキザな声色に変えて許しを請う快斗には益々機嫌を悪くした。
キッドを好きだからと言うの気持ちを利用して上手い事それを使い許してもらおうと考えた快斗の遣り方はには逆効果だったのだ。
「快斗君」
「はい・・・」
「心配した、すごく」
「・・・ごめんなさい」
「快斗君が撃たれたんじゃないかって一瞬でも考えてしまって怖かった」
「・・・ごめん」
快斗の声は心から反省していた。
は電話の先に居る快斗に気付かれない様に静かに笑った。
「・・・でも、キッド、カッコ良かったよ」
「・・・ありがとう」
「・・・もし次があったら絶対に先にやること教えておいてよ」
「はい」
「約束だからね」
「ん、約束する」
「・・・じゃあ許す。早く月下の奇術師から普通の高校生に戻って私のこと迎えに来て」
「・・・ん、直ぐに行く」
「待ってるよ、快斗君」
「さん・・・本当にごめん」
「いいよ、私の方こそ有難う。キッドの声聞けて嬉しかった」
「・・・良かった、じゃあまた連絡するから」
「うん、くれぐれも気を付けてね」
「さんもな!」
いつもの元気な快斗の声を最後に通話は終了し、はそのまま蘭の電話番号を探し出した。
蘭達の居場所を確認して、はベンチから立ち上がると空を見上げた。
「星綺麗だなー」
(贅沢を言えば君の姿も一緒に見たい、なんてね)
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