お手洗いから医務室に戻ると、其処にはまだ誰も戻って来ては居なかった。
は遅いなと思いつつ、椅子を引き灰原の横に腰を下ろした。

「皆どこまで行ったんだろうねー」
「直ぐに戻ってくると思うわ」
「そうだよね。哀ちゃん、具合はどう?マシになった?」
「ええ」

どこか余所余所しさが減った様に見える灰原は、静かに頷いた。
それから暫く、二人は皆が戻ってくるのを待ちながらお互いの他愛無い話に耳を傾けた。
時折零れる灰原の愚痴のようなコナンの活躍っぷりは、意図も容易く想像出来き、はその姿を乾いた笑いで流しておいた。

「そうだ、哀ちゃんに相談なんだけど」
「相談?」
「うん、大したことじゃないんだよ。今日一緒に来る予定だった子にお土産買おうと思って迷ってたんだけど、哀ちゃんならどんな物もらえたら嬉しい?」

そう尋ねたに灰原は視線を反らすと考えるように顎に手を当てた。
静かな時間をはじっと見守り、頭の中で快斗の喜びそうなものを幾つか候補に挙げていた。

「何がその人にとって嬉しい物かは分からないけど、少なくとも好意のあるプレゼントであれば何でも喜んでもらえるんじゃないかしら?」
「・・・そうかな」
「あら、自信無い?本来は二人でミラクルランドを楽しむ予定だったんでしょ?それだけ仲の良い相手だったら何を上げても喜ぶんじゃないかしら」
「・・・そっか」
「あなたが逆の立場で検討違いのプレゼントを貰ったとして、あなたは喜ばない?」
「そんなことないよ!快斗君が選んでくれたものだったら何でも嬉しいよ!」

まさかとは口調を強めて返した。
それを見て灰原は微かに頬を上げると静かに言った。

「ほら、そう言うことよ――それにしても、あなたの相手って男の人だったのね。てっきり友人だと思ってたわ」
「あー、いや、友達だよ。男の子だけど友達」
「・・・そう、随分仲が良いのね」
「うん、色々とお世話になってね。仲良くさせて貰ってるの」
「そうなの、ちょっとだけ気になるわ。あなたと特に仲の良い男友達って人」
「ははっ、いつか紹介出来たらするよ」
「ええ、楽しみにしてるわ」

目を細めた灰原は、そのまま部屋に置かれた時計へと視線を移動させた。
それにつられても時計を見れば、彼らが出て行って三十分は過ぎており流石に遅いと首を傾げた。
それは灰原も同じだったようで、「遅いわね」と少しだけ表情を険しくした。



***



【お客様にお知らせ致します。本日のメインパレードがまもなく開催されます――】

園内放送に辺りがざわめいた。
メインステージへと人の流れが出来始め、は隣の灰原を見た。

「私達もそっちに行ってみようか?」
「そうね・・・」

頷いた灰原を確認しては方向転換を決めた。

医務室での時間を暫く過ごしていたが二人だったが、あまりにも帰りの遅いメンバーに痺れを切らし皆を探すことにした。
外に出ると影が長く伸びており、日が随分と傾いていた。
はまずは携帯を取り出し、蘭へと連絡をしてみたがマナーモードなのか、はたまた騒々しいこの園内では聞こえないのかコールが鳴り響くだけで蘭の声が聞こえてくることは無かった。
これを見ていた灰原は、同じように探偵バッチで子供達と連絡を取ろうとしたが誰も気付かないようで此方も収穫無しに終わった。
仕方無しに二人は、勘を頼りに園内を歩き回ることに決め、途中で土産ショップに立ち寄り灰原のアドバイスも参考にしつつ快斗への土産を購入した。
それから幾ら探しても誰も見つけることが出来ず、途中で耳にした家族連れの会話から少し前に園内で引っ手繰りが起こったことを知り、二人は恐らく其れに皆が関わっているのだろうと互いに確認することは無かったが確信した。

「・・・此処から探し出すのは――」

間も無くメインパレードが開催されるとあって達の向かった先は人で溢れていた。
この中から蘭達だけで無く、背の低い子供達を探し出すのはどう考えても困難でしか無かった。
は駄目元でもう一度蘭へと電話をしてみた。

「―――っ!あ、蘭ちゃん?!・・・うん、そう!――え、ううん、大丈夫――哀ちゃんも一緒!今はメインパレードの会場に居るよ」

数回のコールが続いた後に、聞きなれた声が聞こえは声を張り上げた。
この喧騒では、そうしなければ会話は不可能だった。
は何度か言葉を交わし、電話を切ると隣で此方を見上げた灰原に合わせて腰を屈めた。

「蘭ちゃん達も此処に居るらしいけど会うのは難しいだろうからって、パレードが終わったらもう一度連絡することになったよ」
「分かったわ」
「あとは子供達だね」

がそう言って辺りを見渡した瞬間、何処からとも無く音楽が聞こえてきた。メインパレードが始まったのだ。
今までの喧騒に音楽まで加わりは会話は厳しいと考え、灰原の手を取った。
驚きに目を見開く灰原に、出来るだけ声を大きくして「はぐれたら困るから!」と伝えると灰原は視線を合わせはしなかったが頷いてくれた。
は灰原の手を引いて、賑わう人混みの中を必死に進んだ。

「まずいわね、何処行ったのかしらあの子達・・・」

パレードも順調に進み辺りが益々ごった返す中、灰原が呟いたその時だった。

泥棒ー!
待てーっ!
「逃がしませんよ!」

パレードには似つかわしく無い叫び声が聞こえ、と灰原は同時に声の主を探した。
黄色いTシャツを来た男性が人混みを走り抜ける後に続いて、その姿が見つかった。
歩美、光彦、元太の三人の姿を確認すると、と灰原も三人の後を追いかけた。

「あれってひったくり犯?!」
「そうでしょうねっ」

人を押し退け走り去る男は、人混みを抜けると子供達との距離を離し始め、掃除をしているスタッフをも跳ね除けその手から箒が離れ、地面を転がった。
その後を追う子供達の一人、光彦がさっと屈むと「ちょっとお借りします!」と箒を握り取った。

「蘭ちゃん達だ!」

光彦の動作に気を取られたは、目の前を走る二人の女性に気付いた。
見覚えのあるロングヘアーにポニーテールは間違い無く蘭そして和葉だった。

「待ちなさーいっ!」

そう声を張り上げて光彦が箒を一直線に走る男性へと投げつけた。
箒は男性の足元へと飛んで行くと、それに足を取られ男性はバランスを崩し、それに止めと元太が後ろから体当たりを食らわせれば男性は堪らず地面へと突っ伏した。

「・・・やるねぇ」

がぼそりと零すと同時に灰原は呆れた様に首を振った。
ひったくり犯が顏を上げると、目の前には蘭が立ちふさがっていた。
蘭に襲いかかろうとした犯人だったが、簡単に返り討ちに合い吹っ飛ばされ、その先で今度は和葉に目を付けたが此方も見事に玉砕した。
そして、次にターゲットにされたのは歩美だった。
男に掴み上げられた歩美の叫び声に一斉に周りの視線が集まった。

「動くな!動いたらこのガキがどうなるかわかんねーぞ!」

ナイフを歩美に突き付けた男は、そのまま周りとの距離を離し、ミラクルランドのメインゲートへと進んだ。
徐々に集まる人々の中に、は目暮警部と白鳥刑事の姿を見つけた。

「・・・歩美ちゃん」

見守ることしか出来ずはグッと奥歯を噛み締めた。
このままゲートを出てしまえば爆発してしまう。そうなれば被害は小さくは無い。は歩美が死んでしまう結末なんて無かった、そう記憶しているからこそ何も出来ない自分を悔やみつつも見守ることしか出来なかった。

「近寄るなよ、近寄るとガキの命はねーぞ」

そう言って更にゲートに近づいた男に目暮警部が自分が変わりに人質になると申し出たが、犯人が応じることは無かった。

「じゃあ私が!」
「私が人質になる!あの子が捕まったのは私の所為やし」
「君達は駄目だ」

ならばと蘭が代わりにと申し出たが、瞬時に和葉が自分がと蘭の肩を掴んだ。
しかし、それを隣にいた白鳥刑事が止めに入り、犯人は誰とも人質は交換しないと声を張り上げた。
そして、更にゲートへと近づいた犯人はついにゲートへと後一歩まで移動した。

「ちょっとぉ、ここは入り口でしょ。出口は隣」

そう言ったのは犯人の背後からミラクルランドへと入ろうとしていた女性だった。
「園子っ」と蘭が目を見開き、はハッと全てを思い出した。

「良いから其処どけぇ!」
「ん?怒鳴っても駄目!」

ドンッと背中を押され、犯人は堪らず歩美を腕から離し、その隙を逃さず歩美は走り出した。
蘭に抱え上げられた歩美はギュッと抱き締め返し、は胸を撫で下ろした。

「全く良い年して、こんなルールも守れないんじゃ・・・」

呆れた物言いの園子に犯人が呆気に取られていると、「確保しろっ!」と目暮警部が叫んだ。
犯人はすぐさま反応して逃げ出すと、人混みの中から新たな人質を捕まえた。
しまったと足を止めた目暮警部と白鳥刑事だったが、人質の女性を見るとぎょっとした。

「近づくなよ!近づくとこの女をっ!」

声を張り上げた犯人に子供達が声を揃えて聞いた。

「「「どうするの?」」」
「えっ・・・ど、どうするって」
「・・・どうするか、教えてくれる?」

そう言って人質の女性が顏を上げた。
は心の中で記憶通りの姿である人物に「佐藤刑事・・・」と呟き、犯人が佐藤刑事による見事な後ろ反り投げを食らう様子を見守った。
直ぐに犯人は逮捕され、其処へソフトクリームを両手にして、のうのうとやって来たのは高木刑事で、顔を合せると気まずそうに笑った。

「大丈夫、歩美ちゃん?」
「うん、大丈夫!」

笑顔を返す歩美の頭を何度か撫でてやれば嬉しそうに顏を綻ばせた。
達一同は、犯人と警察の様子を見守り人混みが薄れ始めた頃漸く動き出した。

「あっ、ごめんちょっと電話」

歩き出して数歩の内にの鞄から音楽が鳴り出した。
聞きなれた着信音に急いで携帯を取り出すと、蘭に一言告げて皆から離れた。

「もしもしっ?!」
さん?」
「快斗君!どうしたの?何かあったの?大丈夫?!」
「ははっ、大丈夫。探偵ボウズがちょっと怪我しちまったけど俺は平気」
「そう、良かった・・・」

ほっと息を吐いたを少し離れた場所に居た蘭が呼んだ。

さん!」
「ん、何?」
「目暮警部が話を聞きたいって!」
「分かった、電話が終わったら行くから、蘭ちゃん携帯に気付くようにしてて!」
「分かりました!」

事情聴取と言うやつなのだろう。は全員が背を向けて立ち去るのを確認して、携帯を耳に当て直した。

「もしもし?」
「ん、大丈夫?警察居るの?」
「うん、ちょっとした事件があってね」
「え・・・さん巻き込まれたりしてないよね?」

心配しているであろう快斗の様子は簡単に想像できる。
は出来るだけ平気なことを伝えようと笑った。

「ははっ・・・大丈夫。解決したから」
「そう・・・なら良いけど」
「うん、それでどうかしたの?」
「今から良いもの聞かせてやっから、イヤホンマイク渡したっしょ。あれ付けてて」
「え、何が始まるの?」
「良いから!五分後に掛け直すけど、話しかけられても反応出来ないから、兎に角待っててよ!」
「わ、分かった」
「んじゃ、五分後をお楽しみに!」
「快斗君っ!・・・切れた」

何なんだ一体と、はとりあえずは言われた通りにイヤホンマイクを差し込み、耳へと装着した。
快斗に渡されていた其れは、携帯本体に付けると無線で音声を飛ばしてくれるものでの耳にはコードの無いイヤホンが装着されており、遠目にはイヤホンがあることには気づかれない代物だった。
近くの空いているベンチを見つけは其処に腰掛けると、快斗からの着信を待つことにした。





(何が始まるんだろう)






2013.03.07
これで半分くらい。でも書く部分はそんなに無いからあと一話か二話かな。

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