朝早くから電車に揺られ、そこそこに長い移動距離を経て、と快斗は横浜に来ていた。
先日の一件から、は蘭に連絡を取り、無事に快斗も同伴の許可を得たが、後日、テーマ―パークまでの移動が車であり、一人分しか乗せる余裕が無いと詫びの連絡が入った。
快斗の「俺は現地まで直接行くよ」の言葉には首を振り、二人で現地へ向かうことにした。
約束していたテーマパークの敷地内にあるレッドキャッスルホテルへ到着し、二人は蘭達の到着を待っていた。

「快斗君、コナン君と鉢合わせしちゃって大丈夫なの?」
「んー、正体はばれてないし問題無いだろうけど」
「そっか」
「でも、」
「ん?」

快斗は言葉を区切り口元に手を当てると考えるように表情を険しくした。
がその顔を不思議そうに覗き込むと、彼は静かに口を開く。

「長年の勘っつーか、妙な胸騒ぎを感じるんだよなー」
「ははっ、コナン君って事件を呼ぶからねー」
「・・・やっぱ顏合わせるのは止めとくか」
「そうする?チケットとかは私が受け取ってから、後で会おうか?」
「何かデートすっぽかされた女みたいで嫌じゃね?」
「・・・そんな風に考えてないよ。お気遣い不要だから、コナン君達が来ちゃう前に姿隠したら?」
「ん、じゃあ、そっちが終ったら連絡して」
「りょーかい」

変なところ気を遣ってくるなとは快斗の背中を見送りながら思う。

(君と私は恋人じゃないでしょ)

それから暫くすると、の目の前にどこかの弁当屋らしく松風亭と書かれた車が停車した。

さーん!」
「え、蘭ちゃん?」
「おはようございます!」
「おはよう!これ、蘭ちゃん家の車なの?」

車から出てきたのは予想外にもの待ち人、毛利蘭だった。
彼女は白い上着を羽織、涼しげな恰好をしていた。

「違いますよ!今日は皆が一緒だったんで大きい車じゃなきゃってことで借りたんです!」
「そっかー、そうだよね」

と蘭が会話をしている間に、車からは次々に子供たちが姿を現し、コナンを筆頭にに気付いた子供たちは挨拶をしてくる。

「おはよう、さん」
「あ、おはようコナン君ー」
「「「おはようございます!」」」
「おはよう、貴方達がコナン君の友達の」
「はい!私は吉田歩美って言うの!」
「僕は円谷光彦です!」
「俺は小嶋元太だぜ!」
「・・・灰原哀よ」
「歩美ちゃん、光彦君、元太君に哀ちゃんだね。私は。宜しくね」
「「「はーい!」」」

元気いっぱいの三人と、想像通りの灰原哀の様子には笑みを浮かべた。
彼らが少年探偵団、そして、元黒の組織メンバーである灰原哀なのだなとその姿を見据える。

「あ、さん紹介します。私のお父さん、毛利小五郎」
「初めまして、テレビや新聞で姿は何度か拝見してます」
「あっ・・・いやいやー!あんなもん大したことありませんよ!ガハハ!」
「今日は私達までお誘い頂き有難う御座います」
「良いんすよ!依頼主が何人でも構わねぇっつって、太っ腹なんすから!」
「依頼主・・・?」

何のことだと首を傾げただったが、やはり快斗の勘は当たっていたのでは無いかとチラリとコナンを視界の隅に捉える。

「あれ、そう言えばもう一人一緒にって言ってましたよね?」
「ああ、うん。ちょっと、その子寝坊してるんだよね」
「えー!そうなんですか?どうしましょう・・・」
「あ、大丈夫。代わりにチケットは受け取っておくって伝えてるし、もう少しで着くって行ってたから」

は、不自然にならない程度の嘘を交え言葉を返しておく。
それから直ぐ、高田と言う依頼主の秘書が現れ、レッドキャッスルホテルのスイートルームへと案内された。
案内された部屋には、大きなシャンデリアが吊るされ、真ん中には長いテーブルと幾つもの椅子が用意されていた。

「この椅子なんかあってないよね、この部屋に」
「え?うーん、そう言えばそうね」
「予算ケチったんじゃねーか」
「そんな訳無いじゃないですか」

隣に座ったコナンの言葉には、自分の座っていた椅子を見る。
言われてみれば確かにそうかもしれないなと、部屋全体を見回し、もう一度椅子を見て納得する。
元太や光彦の遣り取りを眺めながら、何かひっかるものを感じる。

(なんだろう・・・、何か・・・)

「お待たせしました」

サービスワゴンを押しながら戻ってきた秘書の高田に皆の視線が集まる。
高田は、これを渡したかったのだと腕に装着するタイプのミラクルランドのフリーパスIDを配る。

「ご友人の方の分もお渡ししておきますね」
「あ、有難う御座います」

コトリと目の前に二つ置かれたIDをは手に取り、しげしげと眺めた。

「さ、皆さん腕につけてください。落とさないようにしっかりとね。無くしてしまうと再発行は出来ませんよ」

言われて、子供たちは嬉しそうに其れを腕に嵌める。
は、何かつっかかる其れに暫く躊躇するものの、仕方が無いと言わんばかりに装着した灰原を見て、真似するように腕に通した。
高田の説明によると、このIDは今日の閉園時間、夜十時まで有効であり、食事も飲み物を全て無料になっている。
その説明に、子供たちの目が輝き、は純粋なものだともう一つのIDを鞄の中へしまった。

「有難う御座います!行こう、コナン君」

そう言って立ち上がった蘭にコナンも続こうとしたがその肩を高田が抑えた。
残って置くようにと指示する高田に、何故なんだと視線が集まる。

「もしかして、このホテルの十万人目の客に当たったとか!」
「っ・・・まぁ、そのようなもので」
「まじかよ!」

光彦へ答えた高田の一瞬の言葉のつまりに、は違和感を感じた。

(ホテルの前には紙ふぶきが落ちていたはずだけど・・・)

しかし、それ以上の怪しい動きも見つけることが出来ず、は思案する。
部屋を出て行こうとする皆を見詰め、そしてコナンを見詰める。

・・・さん?」
「コナン君・・・」

不思議そうに見つめ返すコナンに、は何を返せば良いか分からなかった。

(気を付けてね?一体何を?)

何かが引っ掛かるのに其れが何なのか分からない。
扉の前でを待つメンバーが、どうしたんだと首を傾げた。

「・・・待ってるね」
「う、うん」

何も言えなかった。
は、分からないものは仕方が無いと鞄を肩に掛けると皆に続き部屋を出た。
十万人目の景品は何なんだと盛り上がる子供たちを見詰めながら、はカチャリと鍵の閉まるような音に振り返った。

「・・・」

言い知れない何かがの思考を支配していた。



***



ミラクルランドの入り口に着くと、賑やかな音楽に嬉しそうな声、溢れる笑顔でいっぱいだった。

「それじゃあ、私達は先に」
「うん、友人が着き次第連絡するね」
「はい。でも、今回は御礼のつもりだったんで、私達のことは気にせずお友達と楽しんでくださいね」
「ありがとう。きっとブラブラしてたら会いそうだけど、楽しませてもらうね」
「はい」

ぺこりと頭を下げた蘭とその後に続く子供たちに、は笑顔で手を振り見送る。

「行ってらっしゃい。皆も気を付けて楽しんでおいでよ。迷子にならないようにね」
「「「はーい」」」

元気いっぱいに手を上げて返事する子供たちにはもう一度行ってらっしゃいと声を掛け、その姿がゲートを通るのを確認する。

(あれって!)

既に通り抜けていた灰原が手にしていたものには目を見開いた。
持っている者同士で会話が出来る探偵バッチだ。それを実際に活用している姿に感動もしたが、同時に其れを使わねばならない何かがあったのでは無いかと不安が過る。
それでも灰原が直ぐにバッチを仕舞い平然と歩き出したのでは気にし過ぎだと自嘲した。

さん!」
「あ、快斗君」
「お待たせ」
「全然待ってないよー」
「んじゃ、行くか」
「うん、これ快斗君のIDパスね」
「お、ありがとう。結構立派なんだなー」
「食べ物も飲み物も無料なんだって」
「へぇ!太っ腹ー」

IDを受け取った快斗は、ホテルを振り返り感嘆した。
その時、ホテルから此方へ目を向けている姿に気付き、ゲッと声を上げると慌てて顏を反らした。

「ん?どうかした?」
「いやいや!何でも!」
「・・・本当に?」
「本当、本当!」

ぐいぐいとの背を押し、快斗はゲートへと差し向けた。
ピッと音が鳴り、が通過すると快斗もそれに続きIDをかざした。

「お客様、IDは無くされると再発行出来ませんので腕につけておいてください」
「あ、はーい」

男性スタッフの微笑みに、快斗は手に持っていたIDを持ち上げて軽く返事をした。
そして、もう一度ホテルをチラリと振り返る。

「まーだ見てやがる」
「何?何かあるんでしょ」
「いやいや!」
「嘘だ!ホテルに何かあるの?」
「無いって!」

必死な快斗に益々怪しみを持ち、はホテルを見上げた。
そして、其処に見つけた小さな姿に成る程と納得した。

「名探偵は苦手なんだったね」
「苦手なんじゃなくて、厄介なだけ!」
「一緒でしょ」
「・・・。――しっかし、何であの探偵ボウズはホテルに居るんだ?」
「ああ、何でも十万人目の客に当たったとか何とかで・・・でも、ホテルの入り口に紙ふぶきは落ちてたんだけどね」
「ふーん、じゃあ前後賞みたいなもんでもあるんじゃね?」
「そうかもね。そのようなものって言ってたし」
「言ってたってホテルの人?」
「いや、秘書の人・・・だけど・・・」
「ん?」

は口にして違和感を感じた。

(依頼主はここのオーナーじゃ無いって言ってたよね。
でも、十万人目の客を祝う為に呼び止めたのは、その依頼主の秘書。
年間契約でスイートルームを借りているだけの依頼主。しかも、その秘書である彼が祝うような立場だと?)

さーん?」
「・・・っ!!!」

口を閉ざしてしまったに快斗はその顏を不思議そうに覗き込んだが、次の瞬間、の目が大きく見開き、それにつられるように快斗も肩を揺らした。

快斗君!!!
「は、はい!」
思い出したの!
「え?」
「ID!」
「え、はい・・・ID・・・」

快斗は手に持っているIDを軽く持ち上げて見せる。
は、はっとして其れを掴み上げた。

「え、ちょっ」
「快斗君、聞いて!」
「お、おう」

は辛そうに顏を歪めたかと思うと、快斗の耳元に口を近付けた。
そして、出来るだけ小さな声で、しかしはっきりと口を開いた。
その表情は今にも泣き出さんばかりだったが、快斗には見えていなかった。

「このIDには・・・・・・爆弾が付いてるの。しかも夜の十時になったら爆発する」
「は?」

思わず何の話だと声を上げた快斗を無視しては言葉を続ける。

「快斗君、お願い・・・。コナン君と一緒に謎を解いて」

声が震えていた。
快斗はの体も震えていることに気付き、これは冗談では無いのだとゴクリと唾を飲んだ。

「いや、それより警察に」
「警察には言ってはいけない。それに、このIDをつけて園内に入って再びゲートを通ってしまったら・・・」
「ジ・エンド・・・」
「うん・・・」

快斗の言葉には静かに頷く。
自分の腕についているこれは爆弾なのだと自覚すると、今すぐにでも投げ捨ててやりたいが、それも出来ない事なのだと僅かな記憶が告げている。

「秘書って言うのは、今回の首謀者の?」
「そう・・・私が覚えてることは少しだけ。コナン君と蘭ちゃんのお父さんが一緒に事件の真相を暴く為に動くんだけど、途中で服部君が出てきて、快斗君は白馬に・・・あ・・・」
さん、白馬まで知ってんのかよ。良いけどさ・・・」
「・・・ごめん」
「良いって。それで、他には何か覚えてる?」
「無事に助かるのは分かってる。でも、快斗君の助けは必要だった。それ以外は事件の真相も、間でどんなことがあったのかも忘れちゃってて・・・役に立たなくてごめん」
「役に立ってる!十分にな!恐らく、今日の俺の仕事が関係してるんだろうし、要はあの探偵ボウズの動きを見張っててタイミング良く俺が白馬に化けて現れれば良い訳だ」
「快斗君・・・」
さん、俺の分のIDは預けとく」
「うん」
「絶対に助けるから、心配しないで遊んでろよ」

ニッと安心させるように笑って見せた快斗だったが、の瞳は不安に揺れるだけだった。

「何かあればすぐに連絡してね」
「ん、さんも何かあれば直ぐに連絡してな」

ぎゅっと握り締められた手にはコクリと一つ頷きを返し、快斗のIDを鞄の深くに仕舞い込んだ。





(絶対に助かると信じてる)






2013.02.03
一緒に行動か別行動か迷いに迷って。

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