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一人暮らしを始めてぴったり一カ月が経った。
最初こそ、慣れない土地に慣れない仕事慣れない家事と負担も大きかったが、一カ月経つとその負担も習慣化され負担と感じる量は明らかに減ってきていた。
そんなにとって、今日は羽根を思い切り伸ばせる休日、日曜日だ。
気温も暑過ぎず寒過ぎずの快適さ、ベランダから外を眺めれば青い空が広がっていた。
「洗濯物ついでに布団も干そうかなー」
天気の良さに微笑み、先程洗濯機の中から出してきたばかりのそれを手に取る。
一枚一枚をハンガーに掛けたり、洗濯バサミで挟んだりしながら皺が寄らないように干し終えるとは顔を上げた。
太陽に視線を向けるとその眩しさに思わず目を細めた。
次の瞬間ぐにゃりと世界が歪み、全てがスローモーションに見え意識を手放した。
ピンポーン
ピンポーン
「っん・・・」
ピンポッ ピンポッ ピンポッ ピンポーン
「あー・・・出ますよー、出ますー」
の状況などお構い無しに来訪者を知らせるその音には立ち上がると、一瞬ふら付きはしたが一直線に玄関に向かった。
荷物が届く予定は無かったはずだし、何か重要書類だろうかとは来訪者を予想する。
「はーい」
扉を開ければ、そこにはの予想を完全に裏切る結果が待っていた。
見覚えのない少年が小さな紙袋を掴み、それを差し出すようにして立っており、が、少年そして紙袋へと視線を落とすと少年は口を開いた。
「ワン・ツー・スリー!」
ボンッ
小さな紙袋は一瞬にして大きな紙袋へと変わり、その中にはどうやら多くの物が詰め込まれているようで凸凹と紙袋の形を歪にしていた。
は目を見開き、口を馬鹿みたいに開けて紙袋と少年を交互に見た。
「初めまして!俺、黒羽快斗ってんだ、よろしくな。・・・なーんてな!」
悪戯成功!と言わんばかりに笑顔を浮かべる少年に、は返す言葉が見つからなかった。
そんなの様子に少年は笑顔を引っ込めると、不思議そうにとの距離を縮め眉根を寄せると戸惑いに揺れる瞳を覗き込んだ。
「薄い反応・・・」
「あ・・・」
「ま、良いや。それより、順調?」
「え、・・・あのっ」
気持ちを切り替えたらしい少年は、それ以上のことを気にする事を止めた様で部屋の中を覗き込むように首を伸ばした。
それに気付いたが、ここへ来て漸く動いた。少年の目の前を塞ぐように腕を伸ばし、その進路を妨害する。
「っんだよ・・・ケチ」
「・・・あなた、誰ですかっ!」
がようやっと言葉に出来たその質問に、少年は僅かに肩を揺らすと先程と同じようにの瞳を覗き込んだ。
それから、一つ、態とらしく溜息を吐くと紙袋を抱え直し口を開いた。
「あのさー、いくらなんでも冗談キツイんですけど」
「いや、冗談とかじゃなくて、冗談なのは寧ろそっちで、」
「それはさんなりのジョーク?」
「名前、知ってるんですか?」
「はぁ?」
少年の顔には完全に面倒臭いと書かれていることがは分かった。
しかし、にとっては面倒かどうか等問題では無いのだ。
問題なのはは、この少年を知らないのだ。全く、これっぽっちも。
それなのに、少年はのことを知っており、そして当たり前のように話しかけてくる。
には何が起こっているのか分からない。はっきり言って、この少年は怪しいの一言に尽きた。
「あなたの名前は、。んで、俺は黒羽快斗。昨日、曲がり角から急に飛び出した俺に、自転車に乗ってたさんは急ブレーキを掛けたものの、自転車ごと倒れて怪我。気にすんなって行ったけど俺がお詫びしたいって言ったら、明日、引っ越しだから手伝って欲しいって言われて、明日と言う、今日の日に俺はやって来ました。これで満足?」
「何、その話?」
「・・・もしかして、打ちどころ悪かった・・・とか・・・」
そう言うと同時に青ざめた少年は、視線を彷徨わせた後、顎に手を当て、言葉を選ぶように口を開いた。
「とりあえず・・・病院、行きましょう」
「あの、・・・あなた、私を誰かと勘違いしてるんだと思いますよ」
「それは無い。だって、俺はさんに教えてもらったから此処へ来たんです。幾ら嘘の住所教えたとしても、そっくりさんが居るなんて偶然は無いでしょ」
「でも、本当に私知らないし・・・」
「どう見ても、俺が昨日ぶつかって住所教えてくれたさんなんですけど?」
「でも・・・」
「それに、後ろに見えてる段ボールの山。引っ越し今日なんでしょ?」
「え・・・」
言われて振り向けば、そこには確かに大量の段ボールが存在を主張しており、一カ月前にが経験した引っ越し初日、まさにそれのデジャブだった。
全く身に覚えの無い段ボールの山にどう言うことだと、は眩暈を感じた。
「やっぱり、打ちどころ悪かったんだ・・・病院行きましょ」
「いや、大丈夫だから」
「記憶喪失なってますよ。何を忘れてるかもわかんねーし、一回検査した方が良いですって!」
「あのさ、とりあえず中、入って・・・黒羽快斗・・・く・・・んっ?!え・・・」
「思い出しました?!」
パッと顔を輝かせた快斗だったが、の表情はどう見ても思い出した表情では無かった。
信じられない物でも見たかのように己を凝視するに快斗は首を傾げた。
「黒羽快斗・・・」
「はい」
「怪盗キ・・ッド」
「っ!?」
快斗の目がこれでもかと見開き、それを見てはやっぱりそうなのかと確信した。
「・・・どうぞ、中へ」
疲れ果てた表情で、それだけを告げた。
困惑と警戒心で複雑な表情のまま廊下を進む快斗を見送ると、ゆっくりとドアを閉め、その後に続いた。
(どうすりゃ良いのさ)
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