黄瀬が放課後の文化祭の準備を行う様になって五日目、文化祭は三日後に控えていた。
明日からは時間があるものは全員放課後残るようにと決定していた為、黄瀬がを含めた四人だけで作業を行うのは今日が最後だった。

「ガムテープ…は、」
「そこ、左の机の上」
「あ、あった」

椅子の上に立っていた黄瀬は、左手を伸ばしガムテープを手に取った。
そして、「私にも貸して」のの声に適当な長さで千切ると右手に持ち替えそのまま手渡した。

「ありがと」
「いーえ」

受け取ったガムテ―プを千切って丸め、は目の前の其処へ貼り付けた。
同じようなやり取りをが少し離れた背後でも行われており、黄瀬はちらりと目を向けた。

「なんかあの二人仲良くなったと思わねぇスか?」
「うん、良いことじゃん」
「…そうだけど」
「黄瀬君、人の恋路を無暗に覗くもんじゃない」
「…気づいてたんスね」
「馬鹿にしてるの?」

ひらりと揺れるガムテ―プを摘みながらは黄瀬を軽く睨んだ。
それに黄瀬は軽く肩を竦めて、「よっ」と椅子から軽やかに飛び降りた。

「なんつーか、さん全然気付いてなさそうだったから」
「気付かないふりも必要だよ、黄瀬君」
「…はぁ」

反論する言葉も思いつかなかったし、反論する気も更々無かった黄瀬はそれ以上は口を開かず次の作業へ移る為、プリントへ視線を向けた。
次はあっちだとと共に移動して、黄瀬は再び椅子の上に立ち上がると先程の作業の繰り返しを始めた。





三十分程経った頃、黄瀬はぐっと背伸びをした。
現在行っていたパターンの繰り返しを終え、新たな作業に取り掛かる為必要な道具を揃える為に作業場にしている教室を横断した。

「これまだ使う?」
「ん?ああ、いやもう要らねーわ」
「んじゃ、持ってくから」
「うん、どうぞー」

鳥羽と植木から頑丈そうなカッターを譲り受け、黄瀬はのろりと踵を返した。
植木亜子は黄瀬のクラスメイトであり、そして間違いなく自分へ好意を寄せている一人だったと黄瀬は自負していた。
今回の文化祭準備の初日、彼女は黄瀬とのペアを組みたがっていた。それに気付いていた黄瀬は、必要以上に距離を縮めることは好まず、それも理由の一つとして敢えてと言う人間を相手に選んだのだ。
そして、結果としては黄瀬は探していた人物に出会え、そのものに不満も無かった。
しかし、予想外だったのは植木亜子の感情の変化だった。
出会ってたった数日にも関わらず――恋をするのに時間は関係無いと誰かは言っていたが、植木が鳥羽に好意を示したのだ。それを鳥羽も受け入れていると黄瀬は感じていた。
彼女が黄瀬を嫌いになった訳でも態度が変わったでも無い。
ただ、見る目が今までとは確実に違っていた。

「切り替え早くね?」

ぽつりと零した言葉は誰にも拾わることは無い。
黄瀬はお得意の笑顔を作る。この笑顔で感情は隠せ、便利だった。

「何か企んでる?」
「え、何でスか?」
「笑ってるから、怖いなーって」
「酷くねースか?!」
「いや、だって何が楽しいの?カッター片手に笑顔とか殺人犯すのは止めてよ」

の言葉に、黄瀬は盛大に溜息を吐いた。
女の気持ちの切り替えの早さも理解できないが、このと言う人間も黄瀬にとっては慣れないタイプの女性で、何処か難しく、でも楽しさを感じていた。

「そうだ、さん」
「ん?」
「マネージャーやんねースか?」
「やんねーすよ」
「即答」
「華道部だし、知ってるでしょ」
「知ってる」
「あと、マネージャー出来るとは思えない。黄瀬君たちのフォローとか出来ないよ」
「…そうなの?」
「………出来ると思ってたの?」

嘘だろうと言わんばかりの目を向けるに「黒子っちに緑間っちが推すような人だったんで…」と口を尖らせた。

「黒子君は私しか知り合い居なかったから。みどがね君も同じような理由だと思うよ」
「そうなんスかね」
「そうだよ、そうとしか考えらんない」
「…分かったっス」

あの二人が推すとは言っても本人にやる気が無く、更に特に経験がある訳でも無さそうで黄瀬は中途半端に入部させても意味は無いし、笠松の怒りを買うのは御免だと話を終了させた。





指定のサイズからはみ出た部分の紙を切り取り、黄瀬は「あっ」と声を漏らした。

「破れた…」
「…そこ、両面テープあるから、それで行けるでしょ」

黄瀬は黄瀬の隣に並んだ机の上を指し示し、視線を作業中の手元へと戻した。

「あ、じゃあこれで修復しとこ」
「ばれないようにね」
「余裕!」

悠々と両面テープを千切り、丁寧に其処を修復した黄瀬は「見て、分かんないっしょ?」とに笑顔を向けた。

「…ああ、うん。わかんないと思う、良かったねイケメン黄瀬君」
「なに急に」
「いや、イケメンって今思ったから言っただけ」
「………」
「深い意味ないよ。モデルの笑顔ってやっぱり輝いて見えるもんなんだね、貴重貴重」

の言葉は黄瀬への褒め言葉だったが、その姿を見れば既に黄瀬には目も向けず眉間に皺を寄せ、慎重にカッターを動かしていた。
本気で思ってんのか、そう黄瀬が思うのも無理は無かった。

「お疲れ!俺ら四人だけっては今日で最後だな!」
「あと二日は人数増えるし、私達の作業もなかなか順調だったし無事に文化祭迎えられそうだね」
「ああ、にはいつかお礼しないとな!」
「休んだ分?いいよ、勝手にやったことだし」

鳥羽の言葉には笑って首を振った。

「それも勿論、色々とさり気無いフォローとか?助かったわ」
「…したっけ?」
「無意識かよ、すげーな」

きょとんとするを鳥羽は笑ったが、その隣で植木も「有難うね、さん」と微笑めばは少し恥ずかしそうに「どーいたしまして」と頷いた。

「黄瀬も、サンキューな!」
「此方こそ、お疲れ…っての早いけど、五日間どうも。あと二日頑張って終わらせよ」
「ああ、そうだな!」

四人はほんの数分の会話を終えると、いつもと同じように教室の電気を消し閉錠して其々目的の方向へと別れていった。







2013.11.18
鳥羽は普通に優しいのでね。

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