来週の月曜日に迎えに行くと言われたのが約一週間前。
入部届を出してからの一週間は初めてだらけであっと言う間に過ぎ去った。
クラスメイトもほとんど覚えたと思う。委員会も決まった。教師も必要最低限は知った。
授業に関していえば、中学の復習みたいなものだったので苦労することは現時点では無い。

ちゃん何部にしたの?」
「華道部だよ」
「華道!大和撫子じゃん!」
「似合わなくない?!」
「どーゆー意味よ」

キッと目の前の二人を睨み付けは時計を見た。
教室に残っている生徒は少なくはない。
それもそのはず、今日は部活動初日なのだ。
と同じように教室で先輩を待っている者達も居るが、集合時間が遅めで時間を潰しているだけの者も居る。

「うちらそろそろ行くよ?女バスの集合時間そろそろだし」
「うん、良いよ。行ってらっしゃいな」
さーん。さん、居るー?」

二人に行け行けと手をひらひらさせたところで、は聞き慣れない声で呼ばれた。
呼ばれるままに視線を向ければ、そこには一週間前に見た顔――佐久創が居た。

「あ、居たね。お待たせー、部室案内するよー」

と目が合えば佐久は嬉しそうに手招きして、間延びした声で呼ぶ。
その声に従って机の横の鞄を取り上げ、席を立った。

「じゃあ、私も行くわ。また明日ねー」
「あっ、うん…明日ね」
「…またねー」

どこかぎこちない二人には疑問を抱いたが、大した問題では無いだろうと佐久の待つ扉へと向かった。
妙に女子の視線が集まっていると気付いたのは佐久との距離が一メートルも無くなった時だ。

(ああ、成程)

そう言えばこの先輩はイケメンだったのだと、はじっくりと佐久の顔を見て思った。
教室に先輩で、イケメンで、しかも笑顔なんかでやってきたらそりゃ注目されるか、と納得したところで「お待たせしました」と佐久に小さくお辞儀した。

「ん、行こうか。さんが多分最後だから、ちょっと急ぎ目で」
「…そうなんですか?」
「うーん、多分ね」

何処か遠くを見て、佐久は曖昧に笑ってみせた。





部室の扉を開くのと、怒鳴り声が聞こえたのはほぼ同時だった。

「遅いわ!!」
「…ははっ、悪い」
「す、すみません」

びくりと肩を揺らし、は慌てて頭を下げた。
頭を下げたままのの視界に上履きが見えた。

さん、頭上げて」
「…はい」
「貴方は悪く無いの。まったく、これっぽちも、全然悪くない!」
「そうだそうだ、なーんにも悪くないよー」
「お前が言うな、佐久!あんたが悪いのよ!あんたが!」

ビシッと佐久を指差し声を荒げるのは吉山だった。
話を聞けば、本来授業が終わってすぐに佐久がを迎えに行く手筈だったそうだ。
しかし、部室に新入部員含め全部員が集まったところでの姿が無かった。
何故居ないのかと佐久に問えば彼は「え、知らない。誰が呼びに行ったのさ?」とあっけらかんと言い放った。それに切れたのは勿論、部長である吉山だった。

「そう言う訳だから、さん悪くないから。ごめんね、こんなのが副部長で」
「こんなのって失礼だろ。謝罪を求める」
「…じゃあ、早速活動の説明と自己紹介やって行くから、あそこに座って」

佐久の言葉にピクリと眉を動かした吉山だったが、それをスルーしてに空いている席を示した。
新入生は不安そうな表情だが、先輩達を見る限りでは二人のやり取りは日常茶飯事の様で誰もが呆れ顔だった。

「それじゃあ、先に自己紹介するわ。私が華道部部長の吉山このみ」
「俺が副部長の佐久創」

二人を筆頭に先輩達の挨拶が始まった。
先輩は全部で九名。あっと言う間に紹介が終わり、次は新入部員の自己紹介をと吉山が左端に座る女子生徒を指名した。

「じゃあ、そっちから。クラスと名前、出身校あと何かPRあればご自由に」
「あ、えっと1-Aの国本咲です。生け花はお稽古に通っていますが、まだまだなので宜しくお願いします!」
「はい、宜しくねー。次、どうぞ」
「っ同じく、1-Aの宮川由利子です――」

次々に自己紹介は進み、は最後の最後だったが当たり触りの無い挨拶をして特に注目を浴びることも無く、部活内容の紹介に話は進んだ。

「はい、じゃあ簡単にはこんなもんね。詳しいことはやっていく内に随時話すし、聞いてもらって構わないから。それで、皆が基礎を覚えるまではそれぞれに先輩がつくことにしてる。今日皆が此処まで来るのに案内した人がそのままパートナーと言うか指導者になるわ」

そう言われて、皆は一斉に案内してくれた先輩達へと視線を向ける。
にこりと微笑む者も居れば、居心地悪そうに体を動かす者、恥ずかしいのか視線を反らす者、様々だ。
は、佐久を見た。とても良い笑顔を返された。

「ま、でもご覧の通り新入部員よりも現時点の部員の方が少ないから、指導者が絶対では無いし、相性とかもあるとは思うから色々と思うところあれば相談して。私含め、先輩達は全員貴方たち全員を見るつもりだしね」

二十人は居るであろう新入部員に吉山は優しい笑顔を向けた。
新入部員の中には既に此処への移動までで相性を感じ取った者も居たようで、その言葉に胸を撫で下ろしていた。

「ただし!」
「………」

吉山が声を張った。
全員の目が集まり、すぅーと息を吸った吉山は本日一番の真剣な口調で言った。

「顔だけが好みで先輩を変えろなんて言う部員は要りません。――副部長である佐久創は顔は確かに良いけど、それを理由に入ったなら…馬鹿にしないでよね、華道」
「………」

空気が凍り付いた。
は呆然と吉山を見た。何があったのかは想像の域でしか無かったが、過去の経験があっての吉山の発言なのだろう。

「ははっ、そんな俺のこと褒めても何にも良いもんねーよ?」
「…死ね、佐久創」
「無理無理ー!」
「…空気読めない奴だし、別に部内恋愛禁止なんて言わない。でも、それが目的で何て理由は認めない」
「まぁまぁ、吉山部長怖いから。抑えて、抑えてー」
「誰の話してると思ってんのよ!」
「…えっと、明日から放課後は此処に集合。休みの連絡はクラスメイトか俺たち先輩の誰かに言ってくれれば良いから、――じゃあ、解散で」

佐久と吉山のやり取りに、第三の人物――多田誠也が口を開き、解散を告げる。
解散を告げられても言い争う二人に新入生は呆気に取られつつも部室を立ち去った。

「ほら、お前らさっさと部活始めようぜ」
「だってさ、吉山部長ー」
「…佐久、お前のその無駄に長い睫を切ってやろうか!剪定鋏で切ってやるわ!」
「もうやめろって!切りねぇから!」
「あのっ…」
「…あら、さん。何か質問?」

新入部員で残っていたのはだけだった。
先輩達の殆どは既に華道の準備に取り掛かっており、目の前の三人だけが未だに騒ぎ立てており、は思い切って声を掛けた。

「その、私の担当…」
「…あ、不安?」
「えっと…」
「佐久お前拒否られてんぞー」
「えー、嘘でしょー。俺の担当、さんだけなんだけど、振られたら俺一人じゃん」

の思考を読み取った吉山には素直に頷くことは出来なかった。
目の前に自分の担当である佐久が居るのだから当然だ。

「うーん、相性合わないようなら勿論チェンジは構わないよ」
「はい…」
「でも、とりあえず佐久の指導受けてみてもらえる?それから決めて」
「そうそう、こんなだけど佐久の作品はすげぇよ」
「褒めてくれるの、誠也くーん」
「気持ち悪い声出すなよ!」
「そんなことばっかりするから不安がられるのよ!」
「え、そう?うーん…さん」
「は、はい…」
「俺、花に対しては真剣よ。君が真剣に向かい合うなら俺も真剣に教える」
「…っ」
「そのギャップはズリィよな…うん」

多田の言葉に全くだとは心の中で盛大に頷いてみる。
佐久はから言わせてもらえば、苦手なタイプだった。
確かに見た目は文句無しだったが、性格が適当としか思えなかったのだ。
やるからにはしっかりと取り組みたいと思っていたにとって、佐久は望むタイプの人間では無かった。
しかし、彼がに向けた言葉には誠実さがあり、そして瞳の奥が鋭く光っていた。
これでは指導者を変えて欲しいなど言える訳も無く、は挨拶もそこそこに部室から飛び出した。

「お前なー、あの子顔真っ赤だったじゃん」
「ははっ、可愛いねー、一年生は!」
「苛めんじゃないわよ、全く――部活始めるわよ」

を見送った三人は、それぞれ自分の道具を手に取ると静かに精神を集中させた。






2013.10.28
おっと、キャラが出てないぞ。なんてこった!

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