name:     DreamMaker








「次は体育委員長による準備体操です」


十月とは言ってもまだまだ汗が流れる暑さ。更に加えて今日は雲一つない快晴で太陽の熱を遮るものは何も無かった。
そんな空の下、四天宝寺中学校の運動場では全校生徒が体操着で整列しており、周りは保護者・家族・他校生が囲んでいる。
そう、言わずもがな本日は学生の一大イベント体育祭である。



「自分、先輩のこと好きなん?」
「は?なんやねん、藪から棒に」
「どうなん?」
「テニス部マネの先輩やんな?」
「ん、」
「いや、好きっちゅーか・・・ええなーとは思っとるけど、」
「・・・」


長い挨拶と立ちっぱなしの状況に早くも生徒達が飽き始めた頃、一人の少年が静かに隣に立つ少年へ声を掛けた。
口を開いたのは、ある日唐突に耳に5つものピアスを開けて登校して来たことにより、ちょっとした話題の人物になった財前光。
そんな彼は、求めていた答えを聞くと返事もせず視線を指令台に立つ体育委員長へ戻した。
残された少年、倉岡哲は「なんやねん、自分」と財前の横顔へと零した。
彼は知らない。この事が、テニス部レギュラーにあっと言う間に広まることを。












学年リレー、綱引き、トラック競技、棒倒し、組み体操、騎馬戦と各種目大いに盛り上がり体育祭も終盤に近づいていた。


「次は、部活動対抗障害物・借物リレーです。
各部活動の代表五名が、リレー100m・リレー200m・障害物・借り物・リレー500mの順番で走ります。
尚この競技は、部活動によりハンデが与えられます。ハンデはスタート時間を五秒ずらしで行います」


そんな丁寧な説明を終えると、突如マイクを持ち上げ立ちあがった放送委員の少女は今大会最大の声を響かせた。


「ほな・・・、
代表選手達による華麗な走りに注目や!


ビシッと、待機している代表選手達を指差し、満足気に胸を張ると生徒達だけでは無く観客からも一斉歓声が沸くいた。
端から手を抜くつもりなんて更々無かった選手達だが、ここまで盛り上げられては全てを出しきってでも走らなあかんやろ・・・と、放送部の彼女に余計な事をと思いつつも、嫌でも気合いを入れてくれた彼女に感謝した。
部活ごとに円陣を組んで気合いを入れると、いよいよ第一走者がスタンバイに入った。


「位置に着いて、よーい」




−−−パンッ




最初のスタートでは美術や吹奏楽などの文科部がメインに走り始めた。
それから五秒置きにスタートを切る選手達。
サッカー部・野球部・テニス部・バスケ部がラストのピストル音にスタートを切ると歓声も一際大きくなる。
応援席の生徒達は立ちあがり、代表となった仲間へ声援を送った。
それと同時に、放送部の彼女の解説も白熱していく。


「文化部は既に第二走者へバトンタッチ!せやけど後を追う運動部も既に第二走者に迫っとる!お、テニス部財前光!二年生ながら、次々と三年生を追い抜く!
だが、その顔は相変わらずヤル気ゼロ!ヤル気出しや!サッカー部も早い!既に順位が交代してきたで!」

「うっさいわ・・・」


呟いた声は本人にしか聞こえていなかったが、彼を見守るテニス部メンバーは口の動きだけで読みとれたようで呆れたように笑った。
それでも財前は100mで6人を抜き去り、バトンを持つ腕を伸ばして第二走者へと受け継ぐ。


「千歳先輩、頼みます」
「おう!」


力強く返事をした千歳は、バトンを受け取るとその長い脚を大いに活用して一気にスピードを上げた。
その勢いに、追い抜かれまいとする部活の生徒達は走者へ「千歳や!やばいで!」等と必死に声を荒げた。


「流石はテニス部!熊本からやって来た千歳千里も早いわ!そして直ぐ後を追うはサッカー部!野球部も追い上げる!
おぉっと!バスケ部転んだ!立て!立つんや!諦めるんは早いで!よしゃあ!いけー!!」


放送部の解説に盛り上がりは更に加速する。


「頼むばい、金ちゃん」
「おっしゃ、やったるでー!」


千歳からバトンを受け取ると、一年生にして代表になった唯一の選手、遠山金太郎は走り出す。
障害物はネットを潜り、ハードルを跳び越え、糸で吊るされたパンを咥え、バッドを軸に10回転後30m走る物だったが、一気にスピードが落ちているのは一目瞭然だった。
苦戦する選手達に観客は声援を送ったり、あまりの面白さに腹を抱えて笑う者も居た。


「あぁ!卓球部の部長、原野透ハードルに脛をぶつけた!これは痛いで!放送部、武田加奈は30mが走れてへん!ちょっ、頑張ってや!
ん・・・?!なんと、ここでテニス部のごんたくれ遠山金太郎がネットに苦戦!意外!サッカー部・バスケ部・野球部に抜かれ、おっと遠山暴れ出した!」

「んぎぃー!なんや、これ!邪魔すんなやー!」
「まさかのネットに文句だ!喧嘩を売り始めた!!」


ネットへの苛立ちが増し、遠山は力技に出ようと暴れ出した。
その横を、次々と選手が追い抜き、確実に順位は後退していく。


「金ちゃん、落ち着いて!引っかからないように潜るだけだから!」

「マネージャーからの応援に遠山選手は冷静になった!しかし、既にビリに近い順位。テニス部ピンチ!
一方、サッカー部はトップに躍り出た!バスケ部、島村陽一はパンを取れへん!バスケ部やろ!しっかり跳べや!
ああ!遠山、早い!ハードルを難なく跳び越えー、パン食いも一度で・・・成功っ!これは凄い追い上げ!」


テニス部の物凄い追い上げに、前を走る選手達も思わず振り返り顔を青くする。
「化け物やろ」と呟いた者も居た。


「サッカー部、借物へ!ここで部長、林健二登場!借物のカードを取った!借物は何や?!
二位の野球部も借物へ!続々と第四走者へ!おっ、やっとバスケ部パン食い地獄から脱出した!ここから追い返せるんか?!」


次々と借物のカードを捲ると、普通の借物に胸を撫で下ろす者、無理難題にカードを握りつぶす者、様々だ。
選手達は、借物を求めて其処中を走り回る。


「今回の借物はぜーーーんぶ、人間や!協力するもせぇへんも、自分等次第や!運が勝敗を分けるで!」


正に、運が全てだった。
【メガネを掛けたショートカットの女子】や【教師やってそうな人(本物の教師は除く)】【飴を食べてる人】等は良い方で、【男子バレー部一年】何て物をバレー部で無い人間が取れば協力させることは無理難題だった。


「頼む、!同じクラスのよしみ!協力してや!」
「え?!」


応援席へやってきたサッカー部の林は、両手を合わせ頭を下げた。


「俺の借物マネージャーやねん!」
「・・・あー・・・、でも・・・」
「頼む!ジュース奢ったるから!ほんま、頼む!」
「・・・わかった」
「よっしゃ!」


テニス部のマネージャーである自分がサッカー部に協力することは如何なものかと思いつつも、マネージャー自体が居ないサッカー部の彼は自分を頼ってくれたのだからと断ることが出来ず、了解の返事をすれば、手を引かれ席から引っ張り出された。


「一位行けるで!」
「それは、困る!」


「サッカー部は借物ゲット!早い!借物はどうやらマネージャー!テニス部マネの協力を得た!」


「何やて?!負けへん!」


言うと同時に、第四走者である忍足謙也はカードを捲り目を見開いた。
ボソリと何かを呟くと、一点に狙いを定めその自慢の足で地面を蹴り上げた。


「小春!」
「あら、借物あたし?」
「なんやて!小春は渡さへ」
「協力してや!」
「勿論やで!」
「小春ー!」


身軽に応援席から抜け出すと、「小春を借りたからには勝てや!勝たへんとかありえんで!」と捲し立てる一氏を完全に無視して二人は走り出した。
運動場の真ん中では、借物を見事見つけ出した選手達がマイクに向かってカードに書かれた文字を叫び審査員となっている生徒会長が○を出せば進み、×を出せば探し直しと言う状態だった。


「俺の借物は【自分を好きやと思う人(LOVEの意味で)】や!」
「きゃっ!」
「なんやと、殺すど、謙也!」
「・・・小春かー・・・まぁ、ネタとしておもろいし・・・マル!」
「よっしゃ!」


生徒会長からのGOサインを貰うと、最終ランナーへ向けて走り抜ける。
放送部の彼女の解説によると、サッカー部は既に最終ランナーが走り出している。


「頼んだで、白石!」
「助かったで謙也」


無事バトンを渡すと、謙也は地面へ座りこんだ。
隣で小春が「あと八人・・・いけるやろか、蔵りん」と心配そうに呟き、大きく肩で息をしながらも謙也は「サッカー部には勝たな」そう返した。




「おおっと!なんと!なんと!ラストのラストでまさかの抜き打ち借物カードがばら撒かれたでぇ!!!」


ざわっと会場がざわめいた。


「何やって?!」

「抜き打ちやって?!」

「は?また借物?!」


ラスト500mのリレーが部活対抗での締めだと決まっていたはずの伝統が覆された瞬間だった。
混乱しながらも、最終走者はカードを取るしか無かった。


「さぁ、最初にカードを拾ったのはトップを走るサッカー部、倉岡哲!!二年生ながらラストを任された!」


倉岡はカードを拾い上げると、目を見開き、決心したように走り出した。


「おぉっと!!ここで倉岡Uターンだ!課題は何だ?!」


何人もの選手とすれ違い倉岡はバトンを受け取った地点まで戻ると、「先輩!」と叫んだ。
クラスメイトであるサッカー部部長の林と地面に座り込んでいたは慌てて顔を上げるとポカンと倉岡を見詰めた。


「お願いします!」
「え?え?!」
「あかん!もうサッカー部には貸さんで!」


そう叫びながら直ぐ近くに座って居た謙也は立ちあがった。
しかし、それと同時にの手を引っ張り立ちあがらせると、倉岡は有無を言わさず走り出した。


「あっ!待てや!」
「まぁまぁ!この貸しは返すさかい」
「いらんわ!」


残された林は、走り出そうとする謙也を必死で抑えつけた。
謙也がようやっと落ち着いた頃には、倉岡とは残り300mの地点まで辿り着いており順位は三位まで駆け上がっていた。


「現在一位、野球部!二位と三位は僅差!逃げ切れるんかバレー部?!
その後を追う選手もスピードを緩めへっ・・・テニス部早い!部長白石蔵ノ介、猛スピード!せやけど、借物が見当たらんのはどういうこっっちゃ?!
白石ー!借物やで!借物ー!!!」
「そんなん分かっとるわ!」
「白石どうやら作戦があるようだ!これは面白い展開です!おーっ、ここでバスケ部二位へ!早い!早いで!」


二人ペアで走る選手達を何人も追い抜き、白石はまた一組の選手を走り抜きグッと拳に力を入れた。


「うぉぉぉぉ!白石三位!バレー部を追い抜いた!残り200m弱!」


その放送に倉岡はを掴む手に力を込めた。
白石の考えが倉岡には何となく分かっていた。だからこそ、力を込めた。
随分と近づいた野球部の選手の背中。
「越しましょ、先輩」倉岡は一瞬、を見た。だが返事をする余裕はには無かった。
林との借物から、まさかの続けての借物になってしまったは限界を超えたようなものだった。
脚の感覚も可笑しくなっており、いつ転んでも可笑しく無かった。


「残り100m!一位、二位、三位まだまだ逆転ありや!」


観客も選手もボルテージは最高潮だった。飛び交う声援は他の声援に掻き消され、誰が何を言っているのか分からない状況だった。
そんな中で唯一、放送部の解説だけが聞き取れた。


「相手が先輩やろうと勝ったもん勝ちや!」


倉岡は叫んだ。


「言う通りや、倉岡」
「え」
「最後に、勝ったもん勝ち、や!」


倉岡ががっちりと掴んでいたはずのの手首は、まるで魔法のように意図も簡単に外れた。
それに気付いた倉岡がハッと前を見れば、一瞬前までは横に居たの姿が白石の隣にあった。


「・・・くそ!」


どれだけ走っても走っても、白石達との距離は縮まらない。


「サッカー部も一位だったバレー部を抜いた!なんちゅー展開や!」


気付けば一位だったはずのバレー部を追い越していたようだ。
それなのに白石達との距離だけは縮まる気がしなかった。
どれだけスピードも上げても、どんなに手を伸ばしても、まるで空気のように捕まえることが出来ない存在のように感じた。








−−−パンッ








一位、テニス部!!!


ピストル音に一瞬遅れ、スピーカーから聞こえた声にオォ!と会場が揺れた。
そんな中で白石は、再び審査員となった生徒会長へ自分の借物カードを渡すと、それを見た生徒会長が何事呟き、それに白石は肩を竦めた。
生徒会長は、未だ呼吸のままならないへ「お疲れさん、大変やったなぁ」と苦笑した。
それから、倉岡も会長へカードを渡し何事か言われると、首を振ってハハッと笑うと集まっていた部活のメンバーのもとへ歩き出した。


「テニス部は【大切な人】、サッカー部は【憧れの人】なぁ・・・選択肢はだけや無かったやろ」


二つのカードを見比べながら、会長は三位でゴールしたバレー部からカード受け取り確認すると「お疲れ」と笑う。


「あいつら化け物や」
「ははっ、一位はバレー部かと思ったんやけどな」
「人間や無い」


大活躍した選手に向けての言葉とは思えなかったが、確かにそれは白石と倉岡へ向けられた言葉だった。
せやけど、と会長は心の中で続ける。


「部活のメンバー選べばもっと余裕やったやろ」


【大切な部活メンバー】【憧れの部活の先輩】其方を選べば、彼等は確実にと走るより早く走れたはずだ。
それなに敢えて選んだのは、


「モテモテやなぁ、・・・」


四位、五位と次々にゴールした選手達のカードを受け取りながら零した言葉に周りの生徒は首を傾げた。















体育祭が終了して三時間後。
テントや応援席、得点パネルなど仕事を終えた物達は綺麗に片付けられており、唯一、石灰で引かれたトラックの跡だけが残っていた。
まるで体育祭など無かったかのように静かになった運動場の横を生徒達は帰宅する。
そんな生徒の中に倉岡哲の姿もあった。
彼はふっと見えたテニスコートで部員に囲まれる少女の姿に足を止めた。
少女は、倉岡が大活躍した部活対抗リレーで最後の最後に奪われしまったが彼が敢えて選んだ借物【憧れの人】だった。
リレーの結果は借物が奪われたことで最下位となってしまったが、部活のメンバーは彼を優勝したかのように大いに賞賛した。

「あのなぁ・・・どんだけやっちゅーねん」

倉岡は呆れた。
自分はただ、ここから彼女を見つめていただけや。
そう心の中で少年は呟いた。
倉岡の視界にの姿は無かった。
その原因は明白。
此方に最初に気付いた財前を始めとして、自然を装い倉岡の視線から遮るようにテニスで鍛えられたその体を使って少女を隠したテニス部メンバー達だ。
少年は、静かに溜息を吐いて思った。





  見つめることさえ
 
        咎めるのか諸君









倉岡はテニスコートから視線を外すと一度空を仰ぎ校門へ向けて歩き出した。
一言だけ残して。





「そない大事なら宝箱の中にでも仕舞っとけや、阿呆」






















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この度は、企画へ参加させて頂き有難う御座いました。
苦労しつつも大変、楽しく書かせて頂きました!

 企画サイト「勝ったもん勝ち! 〜四天宝寺からの贈り物〜」様

2010.08.31