05もしもガラスの靴なんてなかったなら
ゴーン・・・ ゴーン・・・ ゴーン・・・
「お待ち下さい!」
「ごめんなさい!私は帰らなくてはならないのです」
「では、せめてお名前だけでも!」
ゴーン・・・ ゴーン・・・ ゴーン・・・
「どうか!どうか、貴方のお名前だけでもっ」
「・・っ、申し訳ありません」
そう言って、美しい女性は何かから逃れるかのように階段を駆け下りた。
王子はその後も追うも無理に彼女を捕まえることは出来なかった。
「きゃっ」
「・・っ!!」
「・・・有難う御座います。本当に、夢のような時間でした」
目の前で、躓いた美しい女性。王子は迷うことなく細い腕を掴み抱え込むように包んだ。
女性は顔を赤らめながらもお礼を言うと、視線を落とし王子の胸から抜け出した。
そして、今度こそ止まることなく階段を駆け下り、一瞬の内に姿を消したのだ。
王子が長い階段を降り切ったときには、どこにも女性の姿は見えなかった。
「ああ、なんと言うことだ」
王子は辺りを見回し呟いた。
そして、己の手元を見つめ、呆然と空を仰ぎ一言漏らした。
「、ガラスの靴を置いていってくれねぇと探せねーよ」
「・・・あっ・・・ごめーん!」
は木の影から飛び出すと、自分の足元に輝くガラスの靴を苦く笑いながら見つめた。
そして、その後からゾロゾロと出てくるのは今回の劇『シンデレラ』に参加するメンバー。
「ったら!折角素晴らしく上手く行っていたのに!肝心のガラスの靴を置き忘れるなんて!」
「ごめんってば!だって、あんまりにもシリウスの王子っぷりが素敵で、忘れちゃったの!」
「人の所為にすんじゃねぇ!しかも、その如何にも嘘ですっつー理由やめろ!」
「そうだよ、幾らシリウスでも傷つくってものさ。シリウスは君にホの字なんだからね」
「違ぇよ!」
悔しそうに姿を見せたのはリリー・エバンズ。
彼女は、台本を握りしめ「漸く無駄な悪戯も無しで進められてたのに!」と軽く涙目だった。
は申し訳なさそうにリリーに駆け寄ったが、その背後からは王子の格好をしたシリウスの怒鳴ったような声が届く。
すると今度は、元から魔法使いなのだから変装する意味も無いのにやたら変装したジェームズ・ポッターが笑いながらやってきた。
「ねぇ・・・言い争う・・って言うか、楽しむのは良いんだけど、日が暮れちゃうよ?もう一度やるなら早めに始めない?」
もう慣れたと言わんばかりの表情で表れたリーマスは、赤くなった太陽を見つめて薄い微笑みを浮かべた。
その一歩後ろでネズミ役を授かったピーターが無言で頷く。
「そうね!もう一回!」
「はぁ?もう今日は止めにしよーぜ」
「ダメよ!今日はとっても良い調子だもの!どっかの誰かさんが悪戯しないお蔭で!」
「ははっ、どこの誰だろうね。そんな迷惑なことをしているのは」
ジェームズはメガネを拭きながら己のポジションへ立ち去った。その背中に痛いほどリリーの視線を感じつつ。
リリーはふんっと鼻を鳴らすと「今度は忘れないでちょうだいね」とに向きなおり微笑みを浮かべた。
苦笑交じりに「了解」と頷き、もまた己のポジションへ向かう。
「それじゃあ、もう一度!よーい、スタート!」
リリーの生き生きとした声が響いた。
「疲れたわー。リリーってば何をあんなに力を入れてるのか分かんない」
「シンデレラ・・・ねぇ。魔法使いは空想って話だろ?」
「違うって・・・良い人は幸せになれるって・・・そう言う話なんじゃない?魔法使いは特に重視されてないと思う」
そう言ってやればリドルは尚更機嫌を損ねたようだ。
「マグルって本当に馬鹿だね」そう嘲笑うかのように言い放った。
「やめてよ。そう言う話はしたくない」
「・・・君も、肝心の場面でミスするなんて」
「あれ?あれはだって・・・ねぇ」
「もしかして本当にあのシリウス・ブラックとか言う奴に?」
微かに緊張気味にリドルは問うた。
一瞬の間も開けず、は笑い飛ばした。
「私がシリウスに?何言ってんの?そう言うリドルこそ嫉妬ですか?」
ゲラゲラと恥ずかし気も無く笑うにリドルは静かに近づくと、その口元を手で覆った。
「僕はもうちょっと大人しい、女性らしい方がタイプだね」
「ふぁっほぉ」
口元を押さえつけられたままでも、はどうでも良いと言わんばかりの返事を返す。
そんなを視界に収め、リドルは一言付け加えた。
「けれど、ガラスの靴なんて無くても僕は君を見つけられるさ」
意味が分からないと顔に出したに、リドルは微笑んだ。
「僕だったら、なんのヒントが無くとも君を見つけられる」
「・・・なんで?」
「決まってるじゃないか、」
トンットンッとノック音が響いた。
「僕だから、さ」
は「はーい」と返事をすると、リリーの声が返ってきた。
「ナルシストだな」
呟いて、ドアノブに手を掛けた。
きっと、また新たなアイデアを持ってきたであろう笑顔の似合う少女のために。
彼の姿はもうそこには無かった。
2008.10.16
お題を見て、一番最初に思いついたのがコレ。
リドルの「ガラスの靴なんて無くても僕は君を見つけられる」これが言わせたかった。それだけです。
お題提供:
童話で5題
01本当に醜いのは誰?
02鏡に問いかけたかったコト
03最期まで愛したのは唯一貴方だけ
04綺麗な紅い罠に誘われて
05もしもガラスの靴なんてなかったならいつか他のも消化するかも?