「401号室になります。そちらのエレベーターで四階にへ上がられて下さい」
そう言われカードキーを受け取ったのは、二時間程前だっただろうか。
少しばかり贅沢をしてみて、大きめの部屋を取ったのは私。
そんないつもはしない贅沢をしたのがいけなかったのでしょうか?
早朝に出発して、今はもう夕方4時。
ホテルの近くを探索したい思いがあったものの、睡魔が私を誘う。
「少しだけ、寝ようかな」
奮発しただけのことはあって、一人での宿泊にも関わらず部屋は3つ。
ベッドも2つの部屋に1つずつある。
私は奥の部屋へと向かい、ベッドの脇に荷物を置くと綺麗に整えられたベッドへ潜り込んだ。
「一時間後で良いか」
アラームをセットして、おやすみなさい。
朦朧とする意識の中で一度目では無いアラーム音が私の意識を浮上させる。
「・・・・んぁー・・・んっ・・・」
時間を見れば、予定していた一時間は過ぎていた。
やってしまったと思いつつも、このまま再び寝てしまいそうな己に喝を入れ、グッと力を入れ起き上がる。
「よっし!起きますか!」
大きく伸びをして、固まった体を伸ばしてやり、そのまま部屋と隣接した洗面所へと向かう。
メイクはどうやら崩れてはいないようで、軽く手を洗い、小さめのバッグに貴重品だけを入れて、ここで漸く部屋の電気を点けた。
大きめの窓から外を覗けば、夕焼けが街を赤く染めている。
「出かけるかな」
自分の居る部屋以外はまだ電気が突いておらず、暗めだったが問題無いだろう目を細め物にぶつからないように進んだ。
帰ってきた時のことを考えると入口だけは電気を点けておくべきだろうと、近くのスイッチを押した。
「あ、違った」
入口のスイッチだと思ったものは、自分の背後の部屋のものだったようで己の影が長く伸びる。
それじゃあ、一つ下のスイッチだろうかと押すと今度こそビンゴ!
間違えたスイッチは『省エネ』と言う単語を頭に思い浮かべながら消そうと指を移動させる。
「・・・んっ」
・・・・・・・・・・・・・・今、・・・・・・・・
この部屋は私しか居ない。
だって一人で予約したのだから。
だから、私以外の声が聞こえるはずが無いじゃない。
ありえない・・・
「・・・・」
恐る恐る振り返り、音のした方を見る。
しかし、暗くなったその部屋に何があるかはほとんど分からない。
勇気を振り絞り、再び部屋に光を戻す。
「・・・・・・・・・・」
ベッドに居る。なにか、が。
ピンポーン
「ひっゃい!」
唐突に鳴り響いたチャイムに心臓が飛び出そうになり、思わず声が漏れた。
「んっ・・・」
ベッドの中の何かが動く。
何か、それは人間。確実に。
ピンポーン
「っ・・・」
八方塞がり。そんな気分だ。
目の前のベッドにあった塊が大きく動き、その姿を現す。
「お・・とこ・・・の・・・子?」
現れた姿は予想していたよりもずっとマシだった。
私の予想は露出狂とか、オタクみたいなおじさんとかそんなのだったから、拍子抜けだ。
「・・・誰?」
もの凄く不愉快そうに吐かれた一言。
私は、相手が子供だと分かった途端、笑いが零れた。
「私は、この部屋に泊まってるんだけど、多分、あなた部屋間違ってますよ?」
「は?」
ピンポーン
「あ、これあなたの友達か何か?もう三度目だけど」
「あー、そうでしょうね」
少年は、ベッドから下りると私の横を通り抜けドアを開けた。
その瞬間、いくつもの声が飛び交う。
「飯や、飯!」
「出掛けるで!」
「お前寝とったんかい。はよ支度しぃや」
「あの・・・なんや、俺の部屋知らん人居るんですけど」
「は?」
「幽霊か?」
「いや、ちゃうくて」
「なんやねん!」
「見てもろた方が早いっすわ」
言うと同時に、少年は体を壁際に寄せる。
「・・・・」
私は無言。そして、あちらも無言。
「どういうこっちゃ」
「お前、連れ込んだんか・・・」
「申し訳ありません。こちらの手配ミスです」
「そうですか・・・まぁ、別に特に何かあった訳じゃないですし、私が部屋移動しますよ」
何も無かった。そう、寿命が縮まった気はするけど何も無かったのだから、良しとしよう。
「貴方達は、友達な訳でしょ?同じ階が良いでしょ?私は一人だし、移動するよ」
「・・・すみません、迷惑かけて」
「いやいや、迷惑って言うかこれはお互い様でしょ」
「あのっ・・」
「はい?」
「その、お部屋の移動なのですが・・・本日満室でして・・・」
「・・・・いや、一つ位空いてるでしょ」
「それが・・・」
「嘘でしょ」
「明日より、大きな祭りが開催される為、どの部屋も満室でして・・・」
私は思わず、少年達を視線を交わす。
「ほな、財前が俺達の誰かと一緒の部屋にするしか無いな」
「・・・ですね」
「それが、皆様のお部屋はシングルでして、ベッドをもう一ついれることは出来ない広さですので一つのベッドに二人寝て頂く・・」
「無理やろ!」
「俺ら男やで?二人同じベッドとか、想像しただけで無理や!」
「ちゅーか、本来俺がじゃんけんで勝って一番広い部屋やったはずなのに、これじゃ外れクジですやん」
「せやな。・・・せやけど、財前が一番体格小さめやし・・・」
まずいことになってきた。
だけど、どう頑張っても私は何もやってあげれない。部屋が無いのだから。
そして、この付近にホテルが無いのだ。だからこそ、満室なんて自体になっているのだろうけど。
「・・・俺は、ええですよ」
「何がや?」
「この人と同じ部屋でも」
そう言って少年は(どうやら財前と言う名前らしい)私を見遣る。
・・・・私を?
「いやいやいやいやいやいやいや!!!」
「そらあかんやろ!」
「せやけど、この中の誰かと同じベッドなんて真っ平ごめんです。
この人の部屋やったらベッド二つやし、問題無いですやん。俺、手出すはずも無いですし」
「・・・・・・・」
手出すはずも無いとは私に魅力が無いとかそういう・・・いやいや、今はそういうことでなくて・・・!
確かに、同じ部屋だけどベッドは違うし、部屋もそれぞれにあるし・・・
「代金、どうなります?」
「勿論、完全に此方の手配ミスにより御客様にはご迷惑おかけしておりますので頂きません」
「・・・そっか」
私は、一度息を吐き少年達を見た。
それに気付いた少年達は視線を私へ移した。
「財前君とか言う少年」
「はい」
「それで行きましょう」
「え?」
「私は部屋移動出来ないし、君たちも同じベッドは嫌。だったら、もう仕方ないから、このまま財前君と私は同じ部屋でいきましょう」
「「「ええええええええええ!!!!!!」」」
「そうと決まれば問題解決。私は、出掛けてきます!」
予定よりも大幅に時間を食ってしまった。
夕飯を食べる位の時間しか無い!
「あっ・・」
「何?」
グッと掴まれた私の鞄。
「どうせやったら一緒に行きましょうよ。同室仲間っちゅーことで、仲良くしましょう」
「・・・いや、君さ、お友達の顔見てみなよ。明らかに困惑してるよ」
「男だらけより、紅一点でも女居た方がきっとええですよ」
「へぇ・・テニスで全国大会!すっごいねー」
「その褒美として、校長から俺らに旅行がプレゼントされたんや!」
「ちゅーても、元々俺ら大阪やし、隣の京都に来ただけなんやけどな」
「粋な校長じゃん!」
本当は、郷土料理だとかその土地ならではの料理を食べたかったのだけど、少年たちは味より量でしょう。
全国にあるような居酒屋で私たちは夕飯を済ませることにした。
「さん、酒飲まんのです?」
「ああ、一応未成年の前だし控えます」
「別に遠慮せんと飲んでくれたらええのに」
「いや、そんなに飲むタイプでも無いしね」
少年達は自己紹介してくれて、話している内にどの子も個性的であっと言う間に名前を覚えられた。
部長の白石君、スピードが自慢で突っ込まれたり突っ込んだりと忙しそうな忍足君、熊本出身で長身の千歳君、バカップルの小春君と一氏君、スキンヘッドの石田君。
兎に角、元気元気な金太郎君。そして、同室の財前君。
副部長の小石川君も居るらしんだけど、体調が悪いらしくホテルで休んでいると。なんてアンラッキー。
「ほな、おやすみさん」
「おやすみー」
「財前、手出すんや無いで!」
「また明日な」
ご丁寧にも部屋の前まで送ってくれて、光君はさっさと中へ入ってしまったのだけど、私は皆が立ち去るのを見送る。
最後に千歳君が「光君をよろしく」と告げて背を向けたところで、私も部屋へと姿を消した。
「ふぅ・・・元気だったなー!」
「先輩らも後輩もいつも以上に煩かったですわ」
「そうなんだ。財前君は静かだね」
「まぁ、そうですね」
財前君は兎に角、静かなイメージだった。そして、クール!
唯一の二年生で、次期部長らしいけど部全体がクールになりそうだ。
「俺、こっちでええです?」
「あ、良いよ。もう寝ちゃったしね」
「シャワー浴びるでしょ。先と後どっちがええです?」
「あー・・・じゃあ、先に入ります」
「ほな、終わったら教えて下さい」
「了解」
意外にも気配りが行き届いている光君に驚きつつも、私は自分の部屋へ向かい着替えを寄せ集めた。
「あ、そう言えば財前君達っていつまで居るの?」
「・・・三泊ですわ」
「長っ!まぁ、明日には部屋空くだろうし良いかー」
「さんは?」
「同じだね」
「ほな、まぁ4日間宜しくお願いします」
「・・そうだね。宜しく」
苦笑しか返せなかったけれど、決して嫌だったからでは無い。
まさかの四日間に苦笑しか出なかっただけなのだ。
「じゃあ、お先するね」
「はい」
「さん、通りますよ」
「はーい」
浴室は私の部屋を通らなければ行けない作りになっていて、こうやって通る時には声をかけてくれる財前君。
そもそも、私が思春期の男の子は色々と見られたく無いものが多いかと思って、声をかけてくれれば見ないよ。と、伝えのがきっかけなんだけど。
私は、声をかけられると浴室の方に背を向けて、携帯を弄る。
「さん」
「ん?・・・ひゃ!」
「どうぞ」
「・・・どうぞって」
「冷蔵庫に入っとったんすわ。お詫びに冷蔵庫内の物サービスやって書いてあったんで、一杯やりましょうよ」
「未成年じゃん。光君」
「楽しんだもん勝ちですわ」
「意味わかんないです」
「ええから」
「あー!開けたし!」
「飲まな勿体ないですよ」
まんまと財前君の戦略にやられて、飲むことになった私は、クールな財前君と静かな会話を続ける。
財前君ってお酒強そうだけど、それはどうやら私の思い込みだったようで確実に目がトロンとしてきている。
ちょっと可愛い。やっぱり子供なんだなと、笑みが零れる。
「財前君、こっちで寝る?私、あっちのベッドで寝るよ」
「いや、移動します。すみません・・・」
「大丈夫?」
「大丈・・・夫・・・で・・」
「では無いんだね」
完全に夢の世界に落ちた財前君に布団を掛けてやり、私は少しだけ明かりを落す。
真っ暗だともし光君が起きた時に困るかもしれないと言う配慮だ。
明るい部屋、つまり本来の光君のベッドのある部屋へ向かい、お邪魔しますと心で唱え、ベッドへと潜り込む。
私も、結構な眠気だったのだ。