春。それは心地よい陽射しに桜の蕾も思わず開いてしまう。そんな時期。 「・・・・春、じゃない・・暑い!」 3月26日。春真っ盛り。卒業式が終わり間も無く入学式の準備に追われ始める。 そんな時期は陽射しがポカポカしてて思わず眠っていたくなるはず。それなのに・・・今日、この日は春なんて嘘だってくらい暑い! ゆっこからメールの支持通り送られてきた例のテニプリのチケット。一日限りテニプリの世界を味わえるとか味わえないとかゆっこは騒いでたけど今日がその一日なのだ。 ぶっちゃけ、テニプリは漫画をゆっこに借りて読んで面白かった。だけど・・・別にキャラに会いたいだの世界に行きたいなんて考えてないし・・思いもしなかった。 「・・・はぁ――テニプリ、ねぇ」 薄っぺらの紙を指で抓むように持って、思わず出たのは歓喜の声では無くて溜息。 私みたいに行きたくも無い人が行くべきじゃない。やっぱり行きたくて行きたくて仕方ないって子が行った方が断然楽しめるだろうし、そのテニプリのスタッフとかその他モロモロだって喜ぶはずだ! ゆっこの言葉なんて無視してオークションで売れば良かった! 「・・・ま、当日じゃ後の祭りですけどね」 再びそのチケットを見て『あのテニプリがやってくる! あなたへの最高のプレゼント!』そんな文字に大きく息を吐いた。目の前には人の山。山。山。 きっと全てがテニプリの世界へ憧れを持ってやってきた子なのだろう。そんな何百だか何千だかは知らないけどたった一人興味も無い人間が紛れ込むのは・・・正直、きつい。 このまま帰ってしまうのも良いかもしれない。そう思った。 それでも、体は無意識に蟻地獄のように人間が吸い込まれていく入口へと向かっていてキャーキャーと騒ぐ女の子後ろへと並んでいた。 「いらっしゃいませ!こちらパンフレットと抽選券となっております」 スマイル無料ですとばかりに笑顔を振り撒くお姉さんに「はぁ・・どうも」と決まりきったセリフを述べ、パンフレットと抽選券なるものを受け取る。・・・ハワイでも当たるんだろうか? ***** 「うぅー・・・やっぱり暑い!」 唯でさえ、今日は暑いのにこのイベント会場(そう勝手に呼ぶことに決めた)は無駄に熱気に溢れてる。 ・・・いや、熱気で溢れてる?とりあえず、絶対に外より暑い!絶対にだ! 私は予想以上に広いこのイベント会場に早くも飽き始めた。疲れたとも言えるけど。とりあえず、近くのカフェに入ることにして一休みといきますか。 「いっらしゃいませ」 「・・・ミックスジュースを、1つ」 「畏まりました」 ・・・あれは・・テニプリキャラなのだろうか・・・。何かやたら美少年?ってか・・何か見たことあるような? いやいや、でも似すぎてるよね?記憶のキャラとぴったりなんだけど・・ってかキャラってこう店で働いてるものなの? もっとアトラクションで会えるとか、会場を歩き回ってるとかじゃないの?店員とかでOKなの?! 「ねっ・・!」 「うん、あれやっぱり不二だよ!」 なるほど。ガッテン。不二か。そう言われてみればそんなキャラが居たかも。ワサビ寿司だのやたらと味覚の可笑しなキャラだっけ? そっか・・味覚音痴は美少年だったんだぁー。へぇ。 「お待たせしました」 「あ、どうも」 「・・・くすっ・・いいえ」 「・・・?」 「ごゆっくり」 「は、はぁ」 噂の美少年、不二さんがミックスジュースを運んできてくれて思わずお礼を述べると何故か笑われて・・・でも、素敵な笑顔で立ち去っていかれました。さっぱり、何が可笑しかったのか分からない・・・。 「280円じゃ」 「・・・300円からで」 「釣りは?」 「は?」 「いるのか、いらんのか」 ・・・・何だこいつ?こいつもキャラなのか?キャラなんだよね?やたら目立つし髪とか銀色だし!しかも、釣りはいるのかだと?はぁ?! 「いるに決まってんでしょ」 「プリッ」 「・・・何?いるの。必要!ってか返して」 「・・・20円の釣りじゃ」 「どうも!」 私は奪うように(100%相手が悪いから!)釣りを受け取り、怒りをそのままに店を後にした。 「ありがとさん」そんな言葉は絶対に聞こえなかった! ***** 「っとっ!す、すみません!」 店を出て早々、さっきの銀髪のことに苛々していた私は缶ジュースを抱えた少年にぶつかった。案の定、少年の腕の中から転げ落ちた缶ジュースは辺り一面に散らばり・・・私達は注目の的だ。 「前方不注意」 「すみません!」 「・・良いよ。それより拾うの手伝ってよ」 「あ、はい。勿論です」 私は、慌てて近くに転がった缶ジュースから手を伸ばし始めた。・・・本当に申し訳無い。私がぶつかったばかりに注目の的に・・・っ! 「これでラストです」 「どーも」 「あの・・本当にすみません!私が前見てなかったばっかりに!」 「・・・別に。それはもう良いって言ったじゃん」 「うっ・・でも、本当に・・すみません!」 「分かったよ。じゃあさ、今度会った時にファンタ奢ってよ」 「あ、はい!勿論」 「じゃ、それでチャラね」 「は、はい!」 山ほどの缶ジュースを器用に腕に抱え、少年は早足で(もしかしたら普通に歩いてたのかもしれないけれど)立ち去った。 ・・・そして、今更ながら名前も知らなければ顔さえまともに見ていないことに気付く。 次も何もあったものじゃないじゃないか! ***** まもなく第1イベントステージにて抽選発表を行います。 抽選券をお持ちの皆様は第1イベントステージまでお越し下さい。 繰り返します・・・ そんな放送が流れたのは夕日がそろそろ沈み始める6時15分頃のこと。 周りを通っていく女の子の話によると(98%以上が女の子で占めてるよ!この会場!)6時半から抽選発表らしい。 そんな訳で、私も一応その抽選券を持っているので当たるはずは無いと分かっているけど抽選の方法とか景品なんかに興味を持って人の流れに逆らうことなく第1イベントステージへ向かった。この中で逆流してるのはトイレにでも行きたい奴だけだろう。多分。 「さて、いよいよ抽選発表だ!お前達よーく聞いておけよ!」 「「跡部様ーッ!」」 「「「跡部!」」」 「「景吾っ!!」」 なっ・・何?!何ごと?あの人もキャラなの?あの偉そうな泣き黒子の人もキャラ?ってか、あのステージ上の人皆キャラ?!だって何か、周りのお嬢さんすっごい名前とか叫んでるし・・・っ・・怖っ! 「それじゃ、早速発表だ!樺地」 「ウス」 「「「・・・・・」」」 やっぱり景品が凄いらしい。会場が一気に静まり返る。そんな中、抽選は至ってシンプル。・・・・クジだ。 そして、クジを引いた樺地とか言う巨大な人の横にひょこっと現れた可愛い子が目を輝かせた。 「これだC−!21386番!兄さんハロー!誰ぇ?」 「てめっ!ジロー!」 どうやら番号を読む予定だったのは跡部とか言う人でジローって子じゃなかったらしい。跡部とか言う人は怒ってる・・・。 でも、それに気付いている人は少ないみたいで皆自分の抽選券を見て「兄さんハロー」と呟いている。これはかなり怖い。呪文だ・・・兄さんハロー・・・恐るべし! 「兄さん・・・は、ハロー・・・」 呪文の言葉を口にして、私も期待なんてすることなく抽選券に目を通す。 「ほらね。2,1,3,8,6だ。これじゃ、兄さんハ・・・・は、ハロォ?!」 待て、待て、待て、待てぇ!有り得ん!嘘だ!兄さんハローだと?! 「・・・チッ、もう良い。樺地、ジローを押さえておけ」 「ウス」 「げっ、酷いC−!」 「当選者は当人がよく分かっているだろう。景品だが、今は言えねぇ。当選者に直接伝えるようになっている」 「そう言うわけだから、当選者は7時半までに俺たちキャラであれば誰でも構わないから伝えてくれ。嘘を吐いてもばれる可能性は100%だ」 「以上。解散!」 残念そうな声色で集まった人々は散らばっていく。このイベントは8時までらしいから最後の一時を少しでも楽しむつもりだろう。 そんな中で私はパニックだ。非常にパニックだ。こんなに大人数の中の一人に選ばれてしまったのだ・・・。 景品が欲しいと思う。思うのだけど、秘密なのが怖い。正直、秘密より怖いものは無いと思う。ここはやっぱり・・・・・・・・ 「帰ろう!」 「あかんで、お嬢ちゃん」 「っ・・・!?」 「逃走不可能じゃ」 「ぎっ・・銀髪野郎!」 「えらい威勢のええ嬢ちゃんやな」 帰ろうと決めた私の決意は一瞬でメガネ青年に崩されついでに滅茶苦茶会いたく無かった銀髪野郎まで現れた。 ピンチ!どうする?!
悩む必要は全く無かった! |